月刊HACCP シリーズ伸びる企業の安全確保・品質管理

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2011年12月号

◎味泉(株)八千代工場(千葉県)
高い開発技術と徹底した衛生管理で、
お客様が求める“世界で一つだけの味”を提供

(株)味泉(本社・千葉県流山市、湯浅ふさ子代表取締役社長)では1974年の創業以来、業務用液体調味料(和・洋・中・エスニック・その他)の開発・製造・販売を主業務としている。主に業務用調味料を取り扱っているため、同社のブランド名が一般消費者に知られることはないが、同社が供給する調味料は、ナショナルブランド商品を製造する大手食品工場、全国に店舗展開している外食チェーン、スーパーマーケットやコンビニエンスストアなど、多くの顧客に愛用されている。

同社では「お客様のために『世界でたった一つの味』を提供する」というコンセプトの下、食品安全の確保品質管理、衛生管理などに妥協なく取り組んでいる。さまざまな規格やマネジメントシステムの導入にも積極的で、2003年にはISO9001認証およびDS3027認証(デンマークのHACCP認証規格)、さらに2006年には同社・八千代工場においてISO22000認証を取得。そして、2011年3月にはFSSC22000認証を取得した。

FSSC22000に取り組んだ背景について、同社の湯浅治会長は「ISOの規格要求事項やお客様からの要望をクリアしていても、それで『ベスト』というわけではありません。食品企業は、常にベストを目指さなければなりません。品質管理や安全性確保についてベストを目指す上で、最も肝心なことは、経営者から従業員に至るまで、全員が常に『お客様のために何が改善できるか?』『現状ではまだまだ不十分だ!』という危機意識を共有することです。そうした危機意識を持っているので、常に『今よりも、もっと良い仕組みやシステムはないか?』『新しいことにチャレンジしていこう!』と考えています」と語る。高い危機意識と旺盛なチャレンジ精神が、ISO9001、ISO22000、HACCP、そしてFSSC22000認証取得の原動力・駆動力になっている。

また、事業本部研究開発部の長尾光春部長は「当社の場合は、自社のブランド名が出てくることはありません。業務用に特化しているので、取引先の数だけ二者監査を受けることになります。消費者の食の安全・安心に対する目が厳しくなると、必然的に、お客様の二者監査のレベルも厳しくなってきます。監査の際に指摘された事項は、その都度、工場内のルールとして盛り込んできました。100社と取引があれば、100社の品質管理・安全確保のルールに対応しなければなりません。しかも、お客様の信頼を損なわないためには、『監査をクリアできるレベルの維持』で留まらず、『お客様の要求よりも高いレベル』でお応えすることが大切です。常に『お客様の要求には、すべてお応えする』という気持ちで取り組んできましたので、このたびのFSSC22000認証を取得するために取り組んだことについても、ほとんどが『これまでに取り組んできたこと』でした。(衛生管理や品質管理については)『お客様の二者監査に育ててもらった』という気持ちが強いです」と語る。内部監査、二者監査、第三者監査を効果的に活用することで、自主衛生管理レベルの継続的改善を実現している。

今後の展開については、新工場の建設なども検討しているが、湯浅会長は「味泉の基本コンセプトは『家庭の料理の延長上』という考え方です。そのため、例えば『パイプラインを用いた大量生産」のようなスタイルを積極的に採用することはないでしょう。パイプを通すということは(内部を通過する食品に)ポンプで加圧するということです。つまり、『食品に負荷をかけている(虐待している)』ということになります。そのことは、食品の性質に、何らかの影響を及ぼすはずです。そもそも、家庭の主婦がパイプを通して料理する場面はないでしょう。同じような理由で、レトルト食品や冷凍食品も取り扱うこともないと思います。そうした商品では、衛生管理や品質管理で難しい面もありますが、今後も『家庭の料理の延長』というスタンスは守っていきたいと思います。当社のような中小・零細規模の企業が、大手調味料メーカーと渡り合おうとすれば、価格や生産効率、流通網の広さなどで勝負しても勝ち目はありません。自分たちが勝負できる土俵を考えなければなりません。千葉県八千代市は、東京などの大消費地に近い立地条件で、これは当社に有利な点の一つです。今後も『特徴ある商品づくり』『お客様のための、世界で一つだけの味』を続けていきたいと思っています」と語った。



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2011年11月号

◎大阪食品化学(株)(大阪府)
“Made in Osaka”にこだわる調味料メーカーがISO22000認証取得
〜社内での「情報の流れ」、作業時の「目的意識」などにポジティブな効果〜

大阪食品化学(株)(大阪市淀川区三津屋北)は、1931年(昭和6年)に大日本調味料工業(株)として設立。創業から約80年の歴史を持つアミノ酸関連の調味料製造会社である。動植物性の原材料から加水分解工程によりアミノ酸液を製造し、その液体を原料に配合型の調味料の製造を行っている。また粉末調味料製剤などの食品添加物の製造も行っている。同社の主な取引先は、70社程度の調味料メーカー、醤油メーカーなどであり、それらメーカーへ同社の製品や受託加工品を納入するB to Bの事業を展開している。同社は本年4月18日、ISO22000認証を取得した。審査登録機関はテュフ ラインランド ジャパン(株)、同社のISO22000の構築・運用・維持管理を支援しているのはアローポイントパートナーズ(株)。

同社の山尾雅一社長は、ISO22000に取り組んだきっかけについて「直接的なきっかけは、当社の主要なお客様からISO22000の認証を取得してほしいと依頼されたことです。産地偽装、賞味期限改ざんによる食品事故など、食品安全に関する問題が多く発生した頃でした。当社はお客様にアミノ酸液や調味料用原料などを納入していますが、正直、それほど高い衛生レベルは求められていませんでした。しかし、当社の製品は、大手調味料メーカーやエキスメーカーなどで原材料として使われています。そして、そうした調味料やエキスなどは、さまざまな食品関連のメーカーで原材料として使われています。そのため、例えばスーパーなどで販売されている加工食品(例えば、インスタントラーメンやカレーなど)の中に、含有量でいえばほんのわずかになりますが、当社の製品が含まれているのです。そのため、もしも当社が食品安全に関わる問題を起こしてしまったら、非常に多くの商品に影響を及ぼしてしまうことになります」と説明する。

ISO22000のキックオフ以降について、山尾社長は「以前から品質管理は徹底していましたし、検査にも注力してきました。品質管理に必要な書類は揃っていました。しかし、『衛生管理』という観点でいえば、それほど管理に注力はしてきませんでした。また、数年前までは製品の特性上、お客さまからも、それほど厳格な衛生管理は求められてきませんでした。また、施設や設備の老朽化も激しかったので、『HACCPやISO22000は、当社の“身の丈”に合わないのではないか?』『本当にできるだろうか?』という気持ちはありました」と振り返る。

実際にISO22000を導入した効果について、品質管理部の松井宗行部長は「特に顕著な変化としては、『情報の流れ』が格段に良くなった。その効果の一例として、例えば、これまで属人化していた技術やノウハウを『見える化』することで、別の社員にも展開できるようになりました。また、内部コミュニケーションの充実も図られ、お互いにきちんと意見が言い合えるようになってきました。当社では半期に一度面談を行っていますが、その時に『社長、私はこう思うんですよ!』といった意見が言えるようになってきました。建設的な意見が言えるようになってきたことは、非常にポジティブな変化だと思います」と語っている。

現状および今後の課題について、山尾社長は「今は、安全・安心のための取り組み、品質管理の取り組みなどを徹底し、かつ強化していかなければならない時代です。当社は会社設立から約80年の歴史がありますが、歴史があるだけでは企業は存続できません。時代のニーズに合わせていかなければ、時代の流れからはじかれてしまいます。私は『HACCPやISO22000という仕組みを使って、“新しい挑戦”をしよう!』と考えているのです。人も組織も、常に『ワンランク上のステージ』を目指して戦わなければ、レベルを上げることはできません」と強調する。

同社では「認証取得は、あくまでも通過点に過ぎない」「ISOを組織作りの一環として最大限に使いこなす」という姿勢でISO22000に取り組んでいる。「市場での競争は、ますます厳しくなるでしょう。少しでも事故や事件を起こせば大変なことになります。長く取引してきたお客様が、ある日、突然、別の会社のお客様になってしまうかもしれません。そうならないためには、お客様に迷惑をかけないように、事故や事件を未然に防ぐ仕組みを確立することが大切です。当社では『誠心誠意努力する』という経営理念を掲げています。とにかく『お客様に迷惑をかけない』ということが大切だと思うのです。そして、日本で、それも大阪という地域で製造業を営むことにもこだわりたいと思っています。大阪の零細企業ではありますが、これからも『“Made in Osaka”の商品』にこだわり続け、次の時代にも生き残っていける企業でありたいと思っています」(山尾社長)。



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2011年10月号

◎(株)ちむら(鳥取県)
水産練り製品企業におけるISO22000認証取得事例

鳥取県の特産品である「豆腐ちくわ」などの製造・販売を主業務とする(株)ちむら(千村直美社長、鳥取市河原町布袋556)は2010年4月、ISO22000認証を取得した(審査登録機関はビューロベリタスジャパン(株)、10月号写真適用範囲は「ちくわ(焼き・蒸し)・天ぷらの製造」)。同社は、農林水産省総合食料局食品産業企画課の補助事業「HACCP等普及促進事業」を活用して、HACCP導入やISO22000認証取得に取り組んだ。
 ちむらは、慶応元年(1865年)の創業以来、「素材の特徴を引き出し、活かしきること」を基本とした「ちくわづくり」にこだわってきた。「美味しさづくり・幸せづくり」というポリシーの下、「原料の魚の鮮度にこだわる」「余計な添加物は一切使わない」「安全で健康に良い美味しいちくわ・かまぼこづくりを通して、お客様の安心と幸福を創造する」「食文化を伝承し、新たに創造する」という姿勢を一貫している。
 ISO22000に取り組んだきっかけについて、(株)ちむらの千村社長は「最近は、お客様の『食品企業を見る目』が非常に厳しくなってきました。今後も会社が安定的に成長の軌道に乗り続けていくためには、何としても『安全』を確保しなければなりません。『お客様に安全な商品をお届けすること』と『会社を守り、社員を守ること』は、会社としての使命であり、責任です。その使命と責任を果たすために、ISO22000にチャレンジすることにしました」と説明する。
 同社のHACCPやISO22000の取り組を支援した(株)レジェンド・アプリケーションズ(旧社名・(株)ワークスソリューションズ)の小川賢シニアコンサルタントは、ISO22000のキックオフ当初を振り返り、「キックオフ宣言の際、千村社長は『ちむらにとって食品安全の仕組みを作ることは“経営改革”です。それを目標として、皆で一気に認証取得まで突っ走りましょう」とおっしゃいました。私は、今でもこの言葉を忘れることができません。その言葉どおり、一気に業務革新(例えば、「7Sの徹底」や「業務ルール(働き方、記録簿など)の改革など)を推進しました」と語る。
10月号写真 同社で品質管理部長を務める葉狩忠信氏は「最初のうちは7S(整理・整頓・清掃・洗浄・殺菌・躾・清潔)の具体的なやり方すらわかりませんでしたが、小川さんのご指導をいただきながら、現場での徹底的な取り組みを展開しました。当社の場合、極論すれば『7Sがきちんと構築できていれば、ISO22000認証は取得できる』というくらい、7Sの重要性は大きかったと思います。どのようなハザードが考えられるかを徹底的に考え、『すべての可能性を除外していく!』という意識で対策を講じました。7Sの構築・運用に際して大事なことは『守りの対策(結果に対する対策)』ではなく、『攻めの対策(危害の可能性を予測した対策)』として取り組むことだと思います」と振り返る。ちむらでは今年から、ISO22000の取り組みのさらなる充実を図るために、「食品安全チーム」の編成を刷新した。この背景には、千村社長の「食品安全の維持・改善は、もはや『取り組み』ではなく、『社風(ちむらの企業文化)』にしなければならない」という思いが込められている。新体制の下、(1)パトロール監査の実施、(2)菌検査などのサポート、(3)衛生管理の実施レベル/製造基準の見直し、(4)新製品の開発の4項目に重点を置いた活動を展開している。
 葉狩氏は、ISO22000に取り組んだ効果と今後の課題について「最も良かったことは、製造現場、包装現場、売店、総務に至るまで、全社的に食品安全に対する意識が格段に向上したことでしょう。私としては『ISO22000に取り組んで良かった』と思います。今後も、全社一丸となって食品安全マネジメントシステムのグレードアップを図り、『地域に愛される会社』であり続けたいと思います」と述べている。


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2011年9月号

◎(株)白洋舎ユニフォームレンタル横浜事業所(神奈川県)
白洋舎がクリーニング工場でISO22000認証取得
〜食品工場と「同じ目線」「同じ意識」で、顧客満足度のさらなる向上を目指す〜

最近は、「ユニフォームの衛生管理」に注意を払い、「洗濯をはじめとしたユニフォームについて、どのように衛生の維持管理を行うか?」と点も、「食の安全・安心」を確保する上で、非常に重要なポイントの一つになっている。そのため、「衛生面」「修理、補修などのメンテナンス」「在庫管理」などの観点から、「ユニフォーム管理のアウトソーシング」を導入する企業が増えている。(株)白洋舎(本社・東京都渋谷区神山町、五十嵐素一社長)でもユニフォームレンタル事業を展開しており、6月16日付で同社ユニフォームレンタル横浜事業所(横浜市北区新羽)においてISO22000認証を取得した。
 同工場でISO22000認証を取得した経緯について、同社ユニフォームレンタル横浜事業所の伊藤真次事業所長は「ここ数年、食品企業と取引する中で、ユニフォームの衛生管理に対しても『食の安全』という観点から見られるようになってきた。そのため、当社としても『食品企業と今後も取引を継続していくために、何かを始めなければならない』と検討を始めた。社内で検討するだけでなく、お客様からもご意見をうかがった結果、フードチェーン全体を対象範囲としたISO22000の取得を目指すことにした。昨年春からISO22000の認証取得に向けた準備を始め、昨年8月に認証取得に向けたキックオフを宣言した」と語る。また、構築の経緯については、「『どうすればクリーニング業で、ISO220000認証を取得できるか?」と考えたが、幸いなことに、当社のクリーニング工場に見学に来ていただいた方々から『食品工場では、このような点に注意して衛生管理を行っています』というポイントや事例をたくさん教えていただいた。そうしたご意見を参考にしたり、コンサルタント会社のご指導もいただくことで、『食品工場と“同じ意識”および“同じ目線”での衛生管理』という視点で、クリーニング工場内の衛生管理の見直しを図ることができた」と振り返る。
 HACCP計画の作成に際しては、すべての工程について生物的・化学的・物理的ハザードを対象としたハザード分析を行った。その結果、生物的ハザードである「微生物」の殺菌については、3段階の工程で対策を講じている。第1段階は「洗い」の工程で、汚れをしっかり落とすためにオリジナル洗剤や過酸化水素を使用し、50 〜 65℃の高温で洗浄する。第2段階は「タンブラー乾燥」の工程で、100℃以上の高温乾燥で殺菌する。そして、最後の第3段階は「スチームトンネル」の工程で、ここでは120℃で6分かけて高温蒸気による仕上げの殺菌を行う。第1段階と第2段階はPRP、第三段階はOPRPとして設定している。3つの工程を組み合わせることで、確実な微生物管理を実現している。
 また、金属異物としてミシン針など、従業員由来の異物として毛髪やアクセサリー類などの混入が考えられる。しかし、ユニフォームにはファスナーなどの金属が付いている場合が多いので、金属探知機をCCPにすることができない。そこで、物理的ハザードについては、「入荷したユニフォームの検査(例えば、洗濯物のポケットの異物チェックなど)」「クリーニング後のユニフォームの異物検査・品質検査」などの工程を組み合わせて管理したり、工場内での「ミシン針の管理」「服務の管理」「持ち込み品の管理」の方法を見直すことで対応している。
 ISO22000の構築・運用に関して、レンタル事業本部の菊池雄太郎氏は「基本的に大規模な改築は行っていない」「ゾーニングでいえば、衛生的な作業が求められる区域については、隔壁を設けて区画したり、必要に応じて二重の高速シャッターを設置した箇所はある。これまでも『区画の衛生度によって床の色を変える』ということは実施していたが、それが確実に遵守されるよう、隔壁を設けることにした。しかし、それ以外については『衛生管理のソフト運用』を重視した改善となっている」と説明する。例えば、防虫対策としては、「窓の開放を厳禁とする。どうしても窓を空けなければならない場合は、網戸がある側に限る」といったルールを設け、さらに窓には24メッシュの網戸を設置した。工場外周についても、定期的に清掃することにした。異物対策としては、工場内の蛍光灯を飛散防止タイプに交換したり、ボールペンなどの文具類はすべて貸出制にした。筆記用具はキャップの紛失が起こらないよう、ノック式(キャップを使わないタイプ)のものに変更した。 その他、工場内の全スタッフにネットキャップの着用を義務づけたり、手洗いの徹底・啓発にも取り組んでいる。内部スタッフで構成する「食品安全委員会」による5Sの巡回監視や、第三者機関による定期的な衛生診断も受けている。
 前出の伊藤氏は、今後の課題について「我々なりに『当社に合った仕組み』を模索してきたが、大切なのは今後の継続的改善であると認識している。キックオフから認証取得まで駆け足で進めてきたが、『社員の意識改革』や『新しいルールの定着や浸透』には時間がかかるし、継続性も必要である。今後は、スタッフの意識やスキルをさらに高めていく取り組みが重要になってくると思う」と語った。


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2011年8月号

◎(有)福池精肉店(岡山県)
食肉卸業界におけるHACCP導入の必然性とその運用
(日本HACCPトレーニングセンター主催・第17回「HACCPフォローアップセミナー」講演要旨)

精肉および加工品の業務用卸小売を主事業とする(有)福池精肉店(岡山県岡山市中区浜3-2-30、福池匡洋社長)は、2008年11月25日に操業開始した工場においてHACCPシステムを運用している。なお、同社では、HACCP構築に際して、農林水産省総合食料局の補助事業「HACCP等普及促進事業」を活用している。HACCPの構築支援は(有)エコロジックの長谷川慶子氏(日本HACCPトレーニングセンター理事)が務めた。
 福池精肉店では、「今後、精肉店が生き残るためには衛生管理の徹底が必須である」という経営判断の下、福池社長は「生き残るためにHACCPの考え方を取り入れた工場を建てよう!」と決意。2008年初頭から工場設計に取りかかった。同時に、新工場を建設中の2008年10月に、福池匡洋社長自ら日本HACCPトレーニングセンター主催の「HACCPコーディネーター養成ワークショップ」に参加した。福池社長は3日間のワークショップに参加した当時を振り返り、「講義が始まった初日から戸惑いの連続でした。PP(前提条件プログラム)、CCP(必須管理点)、SSOP(衛生標準作業手順)など、『何の話をしているのか!?』『さっぱりわからない!』と困惑の連続だった。弱気になりながらも、最終日が終わる頃には、ようやくHACCPの全容が理解できるようになり、『何とか方向性を見つけられた』という手応えが感じた。しかし、自社工場へ戻ってから、実際にHACCPを導入しようとしたら、今度は『一体どうやって自分の工場に当てはめたら良いのか?』『どうすればHACCPを活かすことができるのか?』など、何から着手すれば良いのか見当がつかなかった。そこで、工場長にも同じワークショップに参加してもらうことにした」と語る。
 その後は、社長と工場長が中心となり、工場内での服装や身だしなみ、手洗いの徹底など、「衛生管理の基本」から見直した。当初は、工場内に新しいルールが設けられることについて、現場作業者からは「手間がかかる」「作業効率が落ちる」などの意見も相次いだが、緊密な内部コミュニケーションをとることで、衛生管理や安全性確保に対する意識や理解は格段に向上した。
 HACCP導入の効果について、福池社長は「納品時の営業担当者の対応が変わってきた。HACCP導入前は、お客様からクレームを受けたら、すぐに謝罪して返品に応じるだけだったが、今は自社の衛生管理の取り組みについて自信を持って説明できる。その結果、クレームは減少し、返品もなくなった。また、従業員の食品安全に対する関心や意識が、以前よりも確実に高まっている。まだまだ改善途上ではありますが、スタッフと力を合わせて、さらなる継続的改善に取り組んでいきたい」と語った。
 また、福池社長は、HACCPに取り組んだ経験について「HACCPの導入には『プラスの効果』もあるし『マイナスの影響』もある。『マイナスの影響』しては、例えば「細菌検査キット、マスク、白衣、帽子、アルコールなど、衛生管理に必要な経費・コストがかかる」といったことが挙げられる。しかし、それ以上に『プラスの効果』―例えば『増収・増益になった』『スタッフの技術や接客など、さまざまな面でモチベーションの向上が見られた』など―の方が大きかったと思う。今後も、HACCPシステムの継続的改善を怠らず、お客様に『いつまでもお客様に安心して召し上がっていただける安全な商品』を提供し続けていきたい」とまとめた。


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2011年7月号

◎三州エッグ(株)富士裾野工場
直営農場での育雛・養鶏から鶏卵加工までの一貫事業を推進

 直営農場での育雛・養鶏から鶏卵加工までの一貫事業を推進する三州エッグ(株)は、創業以来、「Farm to table」(農場から食卓まで)をコンセプトに、液卵加工を主力とした鶏卵加工事業を展開してきた。そのコンセプトを実現する取り組みの一環として、昨年7月、クレープ生地などを製造する新工場「三州エッグ・富士裾野工場」の稼働を開始し、さらなる「お客さま満足」を追求している。
 同社が使用するクレープ生地については、20年以上にわたり太陽化学(株)(乳化剤や安定剤などを主業務業とする会社)が製造してきた。しかし、工場の老朽化などの理由から、このたび「原料のから加工まで一手に業務を行う」をコンセプトとした新工場が竣工することになった。ちなみに、富士裾野工場には「Sansyu-egg fujisusono factory to deliver peace of mind And taste(安心とおいしさを届ける三州エッグ富士裾野工場)」を略して、「Satoa!」(サトア)という愛称が付けられている。
 新たに稼働を開始した富士裾野工場について、同社の岩月顕司代表取締役社長は「衛生レベルはもちろんのこと、環境レベル―特に『社員の心の環境』に配慮している。働きやすさや快適さなどの面で、全従事者が健康かつ健全でいられるような工場を目指している。例えば、海外デザインメーカーが手がけた椅子や机など、インテリアにこだわった明るく綺麗なカフェテリアを完備している。従事者が、リラックスした快適な時間を過ごすことができるよう、工場の設計そのものもシンプルでわかりやすいものにしている」と説明する。
 三州エッグでは、工場ごとに独自の活動を展開している。小牧工場ではTPM活動、岩倉工場ではカイゼン活動を行っており、「Satoa!」では「A(あたりまえのことを)B(ばかにしないで)C(ちゃんとする)活動」を略した「ABC活動」を展開している。ABC活動では、安全や衛生に関してはもちろんのこと、品質やオペレーションに至るまで徹底することで、さまざまな情報を従業員と共有化し、消費者に「良いもの」「おいしいもの」を提供することを徹底的に追及している。さらに、それを支える現場の取り組みとしては、4S(整理、整頓、清潔、清掃)活動、物の定位置化(見える化)、ホウレンソウ(報・連・相)の徹底など、さまざまな取り組みも進めている。
 「Satoa!」では現在、静岡県版HACCP(静岡県が実施する「ミニHACCP」事業)の取得を視野に入れている。全従事者に共通の実施事項は「一番、笑顔で働くこと」「一番、元気に働くこと」「昨日よりも一カ所良くする(ハード、ソフト両面)」「一日10回ありがとうと言う」の4つの理念。岩月社長の座右の銘は「我以外皆師」(われいがいみなし)。
 岩月社長は「自分自身が学ぶことや体験することは、非常に大切であり、その心構えを持つことは、成長の原動力となる。しかしながら、人の時間は有限なので、自分以外の人や物から学ぶことは、自分以外の価値観や擬似体験として教えてくれる『良き師』である」と語る。安全・安心の商品提供を支えているのは、高いモチベーションで衛生管理の徹底に努める「Satoa!」スタッフ全員の「力」である。  


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2011年6月号

◎ハーベスト(株)武蔵村山給食センター(東京都)
「民設民営」の学校給食センターでISO9001とISO22000を同時運用
〜品質・安全・衛生の妥協なき追求、企業価値の向上を目指して〜

 社員食堂事業、病院給食事業、学校給食事業などを主業務とするハーベスト(株)(本社・横浜市保土ケ谷区)では、2005年にISO9001(品質マネジメントシステム)認証を取得するなど、高品質な給食の提供に努めてきた(ISO9001の審査登録機関はJIA‐QAセンター)。また、HACCPに基づく衛生管理体制の構築にも努めており、各工場でHACCPシステムを運用しているだけでなく、工場移転や新工場開設に際しては、設計段階からHACCPの考え方を取り入れている。2000年に綾瀬市に移転した湘南工場、2001年に東村山市に開設した多摩工場、2005年に東村山市に開設した多摩第2工場、2006年に市原市に開設した千葉工場などは、施設設計の段階からHACCPの考え方を取り入れた工場(いわゆる「HACCP対応工場」と呼ばれる工場)である。
 同社は2010年3月、東京・武蔵村山市に「武蔵村山給食センター」を開設(東京都武蔵村山市伊奈平)。同センターは、近隣の中学校(5校)に給食を提供しているが、設計段階からHACCPの考え方を取り入れた工場で、稼働開始時からHACCPに基づく衛生管理を行っている。ISO9001の考え方に基づいた品質管理も行われているが、「給食製造業としてさらなるレベルアップ」「信頼される企業ブランドの確立・強化」などを目指して、2011年3月18日にISO22000(食品安全マネジメントシステム)の認証を取得した(審査登録機関は、ISO9001と同じくJIA‐QAセンター)。登録範囲は「学校給食の調理サービス(配送を含む)」。
 同センターは、従来から一般的に見られる「自校式」(学校内の給食室で調理するスタイル)や「自治体が給食センターを建設し、民間企業が運営を受託する」というスタイル(いわゆる「公設民営」)とは異なり、「民間企業(ハーベスト)が施設を建設し、自ら運営する」という、いわゆる「民設民営」のスタイルを取っている点で、非常に特徴的である。
 武蔵村山給食センターにおけるISO22000認証取得に取り組んだきっかけについて、同社フードサービス事業本部学校給食部次長の伊東純一氏は「給食を提供する企業が信頼されるためには、『品質管理』と『安全性の確保』が非常に重要です。そのため、給食センターなどの調理現場ではISO9001とHACCPに基づく管理を行ってきましたが、今後、さらなる信頼を得るためには『品質管理と衛生管理を高いレベルで両立させなければならない』と考えました。そこで、現状からのさらなるレベルアップを目指して、武蔵村山給食センターではISO22000認証の取得に取り組むことにしました。当センターでの取り組みで得られた経験は、今後、当社の他工場でも活かしていくことになります」と説明する。
 また、伊東氏は、今後の取り組みや課題について、「武蔵村山給食センターの特徴の一つとして、『民設民営』という点が挙げられます。従来は『自治体が給食センターを建設し、民間企業に運営を委託する』というスタイル(いわゆる『公設民営』のスタイル)が一般的ですが、このスタイルの場合、どうしても自治体が投入する初期コストが大きくなってしまいます。また、最近は学校給食の分野でもPFI(Private Finance Initiative;プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)のスタイルも見られますが、やはりコストの問題は残ります。『民設民営』というスタイルは、自治体が負担するコストが(公設民営やPFIに比べると)抑えられることから、今後、注目度は高まってくるのではないでしょうか。そうした中、我々は、常に『企業価値の向上』を求めていかなければなりません。価格の遡及(コストの削減)だけでなく、同時に品質管理や衛生管理、安全性確保のレベルアップも求めていかなければなりません。そのために、ISO9001とISO22000を効果的に活用していきたいと思います」と語るとともに、「このたびの認証取得が『ゴール』ではありません。今後、ISOのPDCAサイクル(Plan‐Do‐Check‐Actionのサイクル)を積極的に回して継続的改善を図っていくことが、『ハーベストの企業価値』を高めていく上で重要なことだと思います。当センターの取り組みは、今後、全社的に水平展開していくことになると思うので、他工場の参考になるよう、しっかりとISOを活用していきたいです」と抱負を語った。

 



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2011年5月号

◎特別企画
福島第一原発の事故を巡る放射性物質汚染問題
〜放射性物質のリスクを正しく理解し、風評被害を予防する〜

 3月11日14時46分、三陸沖を震源として発生した地震は、国内最大規模のマグニチュード9.0を記録したばかりでなく、未曾有の被害をもたらした(警察庁によると、2011年3月22日10時現在、東北地方太平洋沖地震による被害状況は死亡者1万3219人、行方不明者1万4274人、負傷者は重傷者・軽傷者を合わせて4742人と報告されている)。
 さらに、3月12日の東京電力兜沒第一原発における事故に関しては、近隣住民の避難指示の発令、食品中の放射性物質に関する暫定基準値の設定などの動きが見られた。4月12日には、政府は1〜3号機の事故について原子力施設事故の深刻度を示す国際評価尺度で最も深刻なレベル7に相当することを発表した。
 食品業界においても、例えば鶏肉を加工・調理して提供している某社では、原料の国産鶏肉を処理する工場の一つが壊滅してしまい、被害を免れた残りの工場も電力が復旧して何とか工場を稼働させることができるようになったものの「燃料不足」が立ちはだかった。処理場で必要な「重油」の備蓄が十分でなく、そのままでは2日間しか稼働できず、関連工場の分をかき集めても4日分しかないという工場もあった。そのため、生鳥は入ってくるものの、食肉処理できないという事態となり、さらに農場から食肉処理場まで搬入するトラックのガソリンも底をつき、農場から出荷できるのに、出荷できずみすみす死なせるしかないという状況に陥ったという。3月23日頃から青森、岩手、秋田、山形、福島などにある食肉処理施設が、当面の灯油や重油を確保し操業を再開しているが、関東地方では、計画停電により稼動に支障を来たしている。
 乳業関係では、3月27日現在、生乳生産の半分を占める北海道では、首都圏の乳業工場稼働率向上に伴い、生乳の輸送(道外移出)を本格的に再開しているが、計画停電の影響で首都圏でのヨーグルトの生産は困難な状況。首都圏への牛乳の出荷も、地震発生前の50〜60%程度まで回復したものの、計画停電が解消されなければ全面的には回復しないという。東北・関東地域の主な乳業工場のうち受乳可能工場数は70%強だという。
 このたびの地震や津波、その後も続く余震などの自然災害は、食品・畜産業界へも壊滅的な打撃を与えている。また、原発問題は、食品や水の安全性に関する問題だけでなく、それに伴う風評被害も誘発し、東北・関東の農業関係者を中心に暗い影を落としている。
 全国消費者団体連絡会の阿南久事務局長は、本誌の取材に応えて「放射性物質については市町村ごとに検査が行われています。基準値を超えたものについては出荷停止にすることはやむを得ませんが、基準値をクリアしているものは出荷でき、市場に出回っているものは安全なのです。そのことが消費者にきちんと伝われば、消費者は買っていきます。当初、県全域に出荷規制をかけてしまったことで、消費者の不信感をあおった感があります。ですから、消費者のためにも正確な情報の積極的な発信をお願いしたいです。今後、畜産物なども検査が行われるかもしれませんが、どのようにモニタリング調査を行うのか、体制を整備していく必要があります」「風評被害の拡大を防ぐためにもリスクコミュニケーションが大変重要です。具体的な方法などはまだ詰められていませんが、先日、私は全国消費者団体連絡会の幹事運営委員の皆さんと一緒に消費者庁を訪れ、『消費者庁を基点にして、リスクコミュニケーションを展開していきませんか?』という提案をしました。消費者の側に立ち、具体的に消費者は何がわからないのか、何が不安なのかということを理解し、わかりやすく説明してもらえるような場を作りたいと思っています。消費者庁がコーディネート役になって、事業者や消費者団体が集まり、学習や意見交換するコミュニケーションを展開するのはどうかと提案しているところです。消費者庁は、そこで話された内容などを国民に発信していければ良いと考えています」と応えている。
 その一方で、4月に入り、農林水産省では、「被災地産食品を積極的に消費することによって、産地の活力再生を通じた被災地の復興を応援する」ことを目的として、フード・アクション・ニッポンと連携したキャンペーン(「食べて応援」をキャッチフレーズとする取り組みなど)なども展開されている。

 



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2011年4月号

◎学校法人誠心学園・東京誠心調理師専門学校(東京都)
調理師専門学校で国内初のISO22000認証取得
〜社会が求める食品安全の人材育成を目指す〜

学校法人誠心学園・東京誠心調理師専門学校は2月25日、ISO22000認証を取得した。審査登録機関は(財)日本科学技術連盟ISO審査登録センター、カテゴリー分野は「G分野(ケータリング)」および「I分野(サービス)」。調理師専門学校はもとより、教育機関における国内初のISO22000認証取得の事例である。

同学校では、フードサービスにおける人材教育として、早くからHACCPやクックチルシステムなど先進の教育を導入し、さらに2007年にはHACCP導入を前提とした新校舎を竣工した。この新校舎では、HACCPおよびその基礎となる前提条件プログラムに沿った教育環境が確立されている。同学校では、このたびのISO22000認証取得により、「これまで本学が実践してきた食品安全に関する教育水準が、国際規格にも準拠する高いレベルにあり、さらに規格の要求するPDCA(Plan‐Do‐Check‐Action)による継続的改善により、教育の有効性を高めることが可能となる」と考えている。

調理師専門学校においてISO22000認証を取得した背景について、同学校の廣瀬喜久子理事長は「新しい校舎を建設するに当たり、私自身が持っている『調理師専門学校像』を表現したいと考えました。そのためには、食品事故を予防する仕組みと人材育成が不可欠と考えました。とりわけ、これからの調理師専門学校は『衛生管理の視点』を持っていなければならないと思います。そこで、いわゆる『HACCP対応』と呼ばれる要素を、随所に取り入れました。そして、『HACCP対応の施設に満足せず、さらなる向上を目指すために、ISO22000にも取り組んでみよう』と考えるようにもなりました」と説明する。

ISO22000認証のカテゴリー分野は「G分野(ケータリング)」と「I分野(サービス)」。「I分野(サービス)」では、ISO22000を基づく「教育」の部分を対象としており、例えば教育で用いるレシピの作成に当たっては、HACCPの考え方、ISO22000の考え方を取り入れている。それぞれのレシピについて、ハザード(微生物、アレルギーなど)、衛生管理のポイント、主原料の特性や管理方法、管理基準など目的、範囲、基準を明確化している。また、管理に必要なCCP・PRP・OPRPの管理マニュアルや、個人衛生や施設管理などのための点検シートなども作成している。教職員が指導の際に用いる「インストラクション・マニュアル」(指導マニュアル)も、ISO22000の考え方に基づいて整備されている。

また、「G分野(ケータリング)」は、同学校の特色あるカリキュラムの「レストランシミュレーション」を対象にしている。これは「社会に出ても通用する調理師を養成する」という目的を実現するために設けられたカリキュラムで、学内に設置されたレストランを実際に運営するという実習である。レストランでは、食品安全・衛生管理に配慮した調理はもとより、接客サービス、レジでの現金の取り扱い、計数管理、マーケティング、メニュープランニング、売上分析など、「レストラン経営」に関するすべてのことを、学生が自らの手で管理する。「ISO22000認証取得のレストランで実際に働くことで、『衛生管理がどれほど大切なことか』『衛生管理のためには、オペレーションのどの部分に気をつければ良いのか?』といったことを真摯に考え、こうした経験が、学生が将来社会に出た時に役に立てば良いと考えています」(廣瀬理事長)。

ISO22000に取り組んだ効果として、教務部の藤木隆幸部長は「教職員と学生が、ISO22000という取り組みを通じて成長していることを感じます。『教職員は、ISO22000という『新しい価値観』の中でしっかりと教育をしている』『学生も、他の調理師専門学校ではできない経験を積んでいる』『この取り組みを継続していけば、他の調理師専門学校の卒業生との差別化になる』といった手応えを感じています」と語る。その一方で、廣瀬理事長は「せっかくISO22000に取り組んだからには、教育面での効果が上がらなければ意味がない。教職員の意識や行動は大きく変わりましたが、もっと良くなるという期待もあります。そのためには、これから先の『継続』が大事になってくるでしょう。これだけ食の安全・安心が強調されている時代なのですから、調理師専門学校としても、『業界の将来』や『調理師専門学校として在るべき姿』を、もっと突き詰めて考え、そのためにふさわしいカリキュラムにしなければなりません。これからも業界に向けた提案をし続けるとともに、業界が求める人材を輩出していきたいと思います」と語っている。



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2011年3月号

◎日本HACCPトレーニングセンター(東京都)
農林水産省委託事業「低コストHACCP導入モデル事業」の事例紹介
カット野菜製造工場における農林水産省「HACCP法」の認定取得を支援

日本HACCPトレーニングセンター(JHTC、浦上弘理事長)は、農林水産省総合食料局食品産業企画課の補助事業「HACCP等普及促進事業」の事業実施主体の一つとして、HACCPを低コストで導入するための手法構築などの事業を受託している。本事業に携わっているフードテクノエンジニアリング(株)の佐藤徳重氏(JHTC理事)は、JHTCが1月に開催した「HACCPフォローアップセミナー」において、カット野菜や総菜キットなどの製造・販売を主業務とする(株)三晃(奈良県大和郡)において、HACCPの構築、並びに農林水産省の「食品の製造過程の管理の高度化に関する臨時措置法」(以下「HACCP法」)の認定取得を支援した事例の概要を紹介した。

三晃は2009年11月にHACCP法の認定取得を目指してキックオフし、翌年12月22日に認定を取得した(認定機関は(社)日本惣菜協会)。佐藤氏はセミナーにおいて、HACCP法に認定取得に際して経験した苦労を語るとともに、今後のHACCP法の普及を図る上で「考慮や検討を求めたい抜本的な課題」についても紹介した。以下は、セミナーで紹介された「抜本的な課題」の概要である。

【抜本的な課題1】

HACCP法は、「各々の指定認定団体が作成した『高度化基準』が存在し、それを担当官庁が認定する」という仕組みである。各々の指定認定団体は、あらかじめ「設定された様式」を採用しているため、様式の自由度を持たせると、専門委員会の迅速な判断が得られにくい―という問題点があるようだ。逆にいえば、「各指定認定団体に、それぞれの『設定された様式』が存在する」と現状があるようで、この点はHACCP法の大きな課題の一つではないだろうか。

【抜本的な課題2】

「抜本的な課題1」とも関わる問題といえるが、「あらかじめ設定された様式」では、現状の製造現場ではなく、「仮想の製造現場」で危害要因分析を実施しなければならない。「仮想」なので、以下のような問題点がある。

(1)現状の作業を確認分析できない
 HACCP法の認定取得に際しては、HACCP計画だけが要求されており、PP・PRPの部分は、文書としては提出しなくてよい。しかし、実際に現場で衛生管理を行い、食品安全を確保するためには、PP・PRPやSOP・SSOPの部分が非常に重要である(仮想の計画では、SOPやSSOP、PP・PRPなど、一般衛生管理に関する大部分が決められない)。

(2)ある程度想定された「CCPありき」の危害要因分析を実施しなければならない
 「仮想の製造現場」で危害要因分析を実施しないといけないので、「CCPありき」で判断しなければならなくなる。そうなると、実際には「CCPで危害要因をコントロールしきれていないにも関わらず、その工程をCCPとして設定する」という可能性などが生じてくる。

佐藤氏はセミナーの総括として、「今回の高度化基準の認定について、新分野のカット野菜製造を通じて、HACCP法に係る技術的な詳細課題、指定認定機関に関する課題が少し見えてきた」「第1に、衛生管理の集大成がHACCPシステムである。そもそもHACCPシステムとは、7原則12手順で構築されるコントロールが可能で、特に重篤なリスクを持った危害要因をCCP(必須管理点)で管理するシステムである。そのため、CCPで管理しない項目やコントロールできないものは、前提条件プログラムで管理することになる。しかしながら、HACCP法では、教育・訓練以外の項目には、触れない法律となっている。次回の改定の際には、前提条件プログラムをさらに盛り込んだ総合的な衛生管理プログラムにすることを、特に行政関係者に対して強く発信したい」

「第2に、現在のHACCP法では、食品製造業に係る34種の営業許可業種にしか適用されない法律となっている。しかしながら、昨今の食品業界の傾向は、高速の情報化社会により食の多様性や諸外国の新しい食文化の流入が起きている上、食品企業は業績向上のため、得意分野に特化した食品製造の資源集中、もしくは特定の製造工程しか請け負わない『食品製造工程内の業務分担の多様化』が進んでいる。この傾向から見ても、日本の食品産業は、食品衛生法の営業許可で分類することのできない、いわゆる『営業許可外の施設届出』の業種が今後急速に増えることが予測される。そのため、HACCP法についても『営業許可外の施設届出』に係る業種への整備を早急に取り組むことが必要である」と言及した。



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2011年2月号

◎ベタグログループ(タイ)
日本企業との合弁でさらに品質高め外食事業も拡大
アグリビジネス企業から総合食品企業へ進化続ける

飼料製造・販売の専門企業として1967年に設立されたベタグロ(Betagro)社は、飼料の製造に始まり、養豚場、産卵用鶏農場事業の運営、養豚契約飼育プログラム、豚肉・鶏肉・鶏卵・動物用医薬品、アニマル・ヘルス関連資材、その他食品の製造・販売、日本企業との合弁による冷凍食品の製造・輸出、さらには日本の外食企業との合弁による外食事業へも進出するなど、業容拡大は目覚しく、今やグループ企業の数は29社に及び、2009年現在の従業員数は2万2000人、売上高は480億バーツ(約1344億円)、に上る。近年では中国やベトナム、ラオスやカンボジアなどでの飼料生産事業などにも乗り出すなど、食品原料の生産拠点の拡大も積極的に図っている。

養豚生産においては、日本の住友グループとの合弁で、SPF豚を生産する「タイSPFプロダクツ社」を設立し、徹底した衛生管理のもと安全性と品質の高い豚肉を生産しており、その豚肉を同じく住友グループとの合弁で設立した食肉処理会社「ベタグロ・セーフティー・ミートパッキング社(BSM)に出荷し処理している。

BSMはタイのDLDによるGMPとHACCP認定を受けており、処理段階の各工程で決められた温度と時間などが徹底的に管理されており、衛生レベルの非常に高い豚肉が生産されている。BSMの近くには日本の大手企業との合弁による鶏肉加工工場やエキス工場などがあり、一大フード・コンプレックスを形成している。その一つが住友商事グループ、大日本製薬(株)、ベタグロの3社合弁による、食品産業で使用する輸出向けブイヨンの製造会社「ベタグロ・ダイニッポン・テクノ・エックス・カンパニー・リミテッド」(2002年設立)。さらにベタグロと味の素グループとの合弁で(株)味の素・ベタグロ・スペシャルティフーズを設立し、輸出用調理加工鶏肉の販売事業を展開するとともに、タイ初のSPF豚肉(原料の豚肉はBSMから供給)の冷凍加工食品の製造・販売事業を行っている。

養鶏・鶏肉加工事業については、養鶏用飼料製造、孵化場、ブロイラー農場、採卵鶏農場、鶏肉の冷凍加工品製造・輸出まで一貫したビジネスを展開している。農場では、良質の品種の選抜、蒸気冷却システム(いわゆるクールセル)の完備など生産管理に万全を期している。

食品事業では、製造システムにおける国内基準、ISO9001やHACCPなどの国際基準を満たし、グループの農場で飼育された肉用鶏や肉豚を、非加熱製品、あるいはソーセージ、肉団子、鶏肉麺などに加工し、「ベターフード」、「ベターソーセージ」、「ハイミートS・Pure」というブランド名で国内販売している。また輸出用として、鶏肉や豚肉の調理済冷凍食品をはじめ、顧客の要望に応じて製造した製品、食品業向けブイヨンも販売している。

ベタグロ・グループは2009年3月3日、同グループ40%、伊藤ハム40%、タイ味の素社 15%、宝永物産5%の出資比率で「イトウハム・ベタグロフーズ社」を設立。タイ国内に食肉加工品の工場を建設し、そこで製造したハム・ソーセージを中心とする食肉加工品を日本とタイ国内向けに販売している。

こうした取り組みに合わせて同グループでは、自社ブランドの食肉、ソーセージ、冷凍食品などを販売する直営卸売店「ベタグロショップ」の店舗数も65店舗に増やし年間売上16億バーツを目指す。

この他のブランド・差別化戦略としても採卵農場で生産された新鮮な鶏卵を「ファーム」や「S・Pure」といったブランド品として生産・販売している。特に後者は生食用卵として、抗生物質フリー、冷蔵流通、日本と同様の選卵・選別設備で品質・衛生管理を行っていることなどをパネル掲示するなど販促にも力を入れている。

「S・Pure」卵は、ベタグロ社と日本の日本農産工業(株)の合弁事業(ベタグロ・ノーサン(株))により生産・流通が行われており、日本農産工業はベタグロ社の新ブランド卵の生産・流通管理についてノウハウを提供。日本農産工業が日本で行っている品質管理プログラムと同様のプログラムが採用されている。

安全性の確保は非常に重要であり、サルモネラやその他の病原菌による汚染の有無は定期的にチェックされ、飼料や鶏舎環境には(クーリングパッド設置による温度管理など)万全を期している。採卵鶏(ローマン鶏)はすべてバイセキュリティの徹底された最新の鶏舎で飼育され、パッキング段階では卵のヒビや血斑などの連続チェックが行われている。



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2011年1月号

◎日本細菌検査(株)(大阪府)
添加物製造、衛生検査資材「BACcT」製造をISO9001で品質管理

食品添加物・調味料の設計・開発・製造、食品衛生検査資材の設計・開発・製造、食品衛生に関わる微生物検査・理化学検査の受託検査業務などを主業務とする日本細菌検査(株)(戸ヶ崎惠一代表取締役社長、大阪市淀川区三国本町2‐13‐59)は、平成22年10月6日にISO9001認証を取得した。審査登録機関はシーアイジャパン(株)、審査登録範囲は「食品衛生検査器具および備品の設計、開発、製造」「食品衛生に関わる微生物検査、理化学検査の受託検査業務」「食品添加物、調味料の設計、開発、製造」「食品製造業向け洗浄剤、除菌剤の販売」。

同社の戸ヶ崎惠一社長は、キックオフ当時を「マネジメントシステムを導入する意義や重要性については、以前から十分に認識していた。そのような中、社員から『良い品質の業務、良い品質の経営を、今後も継続していくために、ISOに取り組んではどうか』という声が上がってきた。そこで、本来、こうした取り組みはトップダウンで進めている企業が多いが、当社の場合は、(社長が牽引するのではなく)社員を中心としたISO推進委員を設置して、ボトムアップで認証取得に向けて進めていくことにした。実は、3年前にもISO9001の認証取得に向けてトライしたことがあったのだが、当時はコスト面の問題があったり、認証取得に向けて強く推し進めていこうとする人がいなかったことから、その取り組みは途中で立ち消えとなった。しかし、その後、お客様からさまざまなクレームが寄せられたこともあり、『会社として、何とか対応しなければならない』という雰囲気が、社内全体に広がってきて、再度、ISO9001に取り組むことなった」と振り返る。

その後、平成21年5月15日に認証取得に向けてキックオフし、約1年間の構築期間を経て、認証取得に至った。認証取得に至るまでには、「トップダウンというよりは、むしろボトムアップで取り組む」という同社ならではの独自のプロセスや、「内部監査の頻度を高め、積極的な現場改善を意識する」といった臨機応変な対応があった。「このままでは認証取得ができないのではないか?」という危機的状況にも直面したが、「必ずISO9001を使って、会社を変える」という不退転の決意で、立ちはだかる幾多の困難を乗り越えた。

現在は、「確実かつ円滑なコミュニケーションが図られるように、会社全体が変わってきた」「各部署で『それぞれの責任を全うしなければならない』という意識が共有されるようにもなった」など、ポジティブな効果も見られ始めている。ISO推進委員のメンバーである森基行専務は「会社としての大きな成果として、(1)お客様に満足していただける製品作りをするための『スタートライン』に立つことができた、(2)さらなるお客様の満足度アップに向けて前進していくための『土台』ができた、という2点が挙げられる。また、個人的にも、このたびの取り組みを通じて、(1)社員一人ひとりのスキルが高い、(2)やればできる、(3)人それぞれに個性がある、(4)適材適所の妙、という4つのことを再確認することができた。(もちろん、これからISO9001の維持管理・継続的改善を図ることが重要ではあるが)ISO9001に取り組んでみて本当に良かったと思う。」と語る。

また、戸ヶ崎社長は「当社では、食品衛生検査器具(培地など)や食品添加物を取り扱っている。食品添加物は、それが食品の副原料のような位置づけで消費者の口に入るので、その安全性はきわめて重要な問題である。また、食品衛生検査器具については、HACCPやISO22000などに取り組んでいる食品企業がユーザーとなる場合が多い。そのため、当社の業務においても、HACCPの考え方、あるいはISO9001とHACCPを組み合わせた考え方(「ISO22000の考え方」といってもよいかもしれない)を取り入れることができるのか、(取り入れられるのであれば)どのようにすれば業務へと落とし込むことができるのかを、将来的な問題として検討していかなければならない。このたびのISO9001の認証取得は、そうした将来の取り組みへと向かっていくための『はじめの一歩』である。今後、次なるステップへと進めていかなければならない」と語る。



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