2012年12月25日号

シリーズ 進化するブランド 67
◎さくらともみじ((株)後藤孵卵場)
FANアワード2012で優秀賞
食料自給率向上に寄与する純国産鶏


(株)後藤孵卵場(本社岐阜、日比野義人社長)が兵庫県姫路市で運営するたまご直売店「さくらともみじ」が「フード・アクション・ニッポン(FAN)アワード2012」の流通部門で優秀賞を受賞した。

FANアワードとは、国産農産物の消費拡大の取り組み「フード・アクション・ニッポン」の展開の一環として創設され、食料自給率向上に寄与する事業者・団体等の取り組みを一般から広く募集し、優れた取り組みを表彰することにより、食料自給率向上に向けた活動を広く社会に浸透させ、未来の子供たちが安心しておいしく食べていける社会の実現をめざすものである。

日本の民間企業で唯一、純国産鶏「さくら」と「もみじ」の種を保有し、育種改良をしている後藤孵卵場が純国産鶏を通して日本の農業の活性化と自主性、食料自給率の向上を促進している。その活動内容のPRと顧客のための直売場ノウハウの蓄積を図るため、「さくらたまご」「もみじたまご」の直売店を運営している。

養鶏飼料に関しても積極的に取り組んでおり、「エコフィードの発酵利用」を掲げている。食物残さ(米糠、おから、しょう油粕など)を利用するエコフィードは、環境負荷が少ないものの、保存性が悪く、処理コストもかかるといった問題点はあるが、発酵させることでそれらの問題を解消しようというもの。それに伴い、賛同養鶏場への発酵機器の斡旋や飼料配合の技術的ノウハウの向上にも取り組み、飼料の自給率向上が期待されている。

店長の門明一氏は「弊社の雛を使っていただいている顧客は、農場に自家配合飼料の設備を持っている場合が多いため、エコフィードが受け入れられやすい土台があったのかなと思う。また、顧客によっては差別化による付加価値販売の要素としても捉えられ、『多少コストがかかっても、良いものを作るためなら』という形で積極的に取り組んでいる農場もある」と話している。

ウェブ上での活動も精力的に行われており、通常のウェブサイトを中心に、ツイッター、ブログ、フェイスブックとそれぞれ目的に合わせ使い分けている。同氏によると「ブログは細かいことを写真を織り交ぜながら長文で、ツイッターは消費者と相対して宣伝ではなく、知人と情報を共有するようなスタンスで、そしてこれからはフェイスブック上で後藤孵卵場だけの取り組みだけでなく、顧客の紹介や純国産鶏のつながりで顧客と一緒になって活動する拠点にしたい」とした。

さらには平成25年1月から後藤孵卵場のウェブサイト上に通信販売部門を社長直轄で立ち上げる予定であるという。




2012年11月25日号

シリーズ 進化するブランド 67
◎(株)八千代ポートリー
動物性原料排除した「食菜卵」ベースに―
製販一体、地域密着、マーケット主義を貫く


横浜市営地下鉄・港南中央駅から徒歩3分、住宅街の一角に、最先端の設備を備えた(株)八千代ポートリー(笠原政利社長)の本社GPセンターはある。1929年に養鶏を始め、戦時中は日本海軍指定業者として養鶏業を維持、戦後の物資不足の中でも事業の継続と横浜市民への鶏卵の安定供給に努めたが、かつての農村地帯は高度経済成長と軌を一にして大規模な宅地開発が進み、田園都市から住宅都市へと大きく変貌を遂げた。1970年代に入り、先代社長の笠原節夫氏(現相談役)が千葉県君津市に生産拠点を移し、(有)八千代ポートリーを設立。79年には販売部門を(株)八千代ポートリー、生産部門を(有)横浜ファームに分離、本社をそれぞれ横浜に置き、今日に至る製販一貫体制の基礎を築いた。87年には「健康な若めすづくり」のコンセプトで一致した養鶏場3社、飼料会社と共同出資し、育雛・育成農場の(有)ユウファームを千葉県大栄町に設立。89年に有機肥料の販売会社、(有)南総有機産業を設立している。

横浜ファーム(笠原節夫社長)は現在、君津農場(成鶏70万羽)と、2010年に稼働を開始した下妻農場(同40万羽)の2カ所で合計115万羽を飼養、販売会社である八千代ポートリーの鶏卵取扱数量は関東一円の協力農場を合わせて年間約3万トン、グループ全体で200万羽弱のボリュームとなる。八千代ポートリーは現在、鶏卵や鶏卵加工品の製造・販売を中心に、有機肥料の販売、数年前からは飼料用米の委託生産や有機野菜などの生鮮食品を販売する循環型ビジネスにも取り組んでいる。

主力ブランド「食菜卵」を開発したのは20年近く前。当時、魚粉や肉骨粉など動物性原料からサルモネラ菌が検出される確率が高かったことに加え、学校給食から「卵アレルギーで卵が食べられない」と相談を受けて、飼料メーカーと取り組んだ結果、動物性原料を排除。現在は植物性原料の飼料に、オリゴ糖の主成分であるマンノースと枯草菌を常時添加し、ビタミンEを可食部100グラム当たり普通卵の約4〜5倍含有させ、栄養機能を高めている。この食菜卵をベースに、飼料用米10%配合の「食菜卵 穂の華」、小玉10個入りの限定商品「農場からの贈り物」も発売。本社工場の製造アイテム数はざっと120〜130種類。2006年10月にはGPセンターを全面的にリニューアルし、洗卵選別工程とパッキング工程の間に、原料卵40万個を一時保管できる自動倉庫システム(NABEL製)を導入。トレーサビリティを容易に行えるようにしたほか、多品種大量生産と現場作業の大幅な合理化を実現している。




2012年10月25日号

シリーズ 進化するブランド 66
◎(株)アグリテクノ
話題を呼んだプリンのノウハウを活かし
「伊達男たまご」の用途拡大を検討へ


ビタミンEを通常卵の4倍含む特殊卵として、地元・伊達市からその名が付いた「伊達男たまご」。地元を盛り上げようと、(株)フクベイフーズを通して販売を強化しようとしていた矢先に、東日本大震災と原発事故が発生した。以来、福島県産の食品を取り巻く環境は一変、特に、県内を中心に東北の消費者が福島県産の卵を避けるようになったという。

麦やコメ、紅花、パプリカなど、研究を重ねた飼料を与え、FACCO(イタリア)のトンネル換気を業界に先駆けて導入、鶏舎内環境を良好に保ち臭みのない卵にするなど、品質の向上に努めてきただけに、ここへ来ての原発事故と風評被害はあまりにも大きな打撃となった。

とはいえ、嘆いているばかりではない。(株)ピーピーキューシー研究所の協力を得て、会員各社の鶏卵に含まれる放射性物質量の検査を実施、その結果を毎週公表している。県協会では昨年8月と10月に全国紙への広告出稿で福島の卵の安全性をPRしたほか、主婦が読む雑誌(オレンジページ)にも記事広告を2回掲載、同誌2月号では県内の養鶏家を代表して自身も対談に臨むなど、風評被害の払拭に力を尽くす。

対談相手は、福島県産の卵と米粉を材料にライスバウムを製造・販売する「バムラボ樹楽里(きらり)」を運営する(株)丸福織物外食事業部の齋藤陽一さん。この対談で、齋藤さんの福島の卵への思い入れと、卵とスイーツとの組み合わせの妙を聞いたことが、「今後へのヒントになった」という。カギは、プリンだった。

見た目とボリュームのインパクトで、スイーツ好きの間で爆発的な人気を呼んだ「伊達男プリン」は、その商品名で検索するとアグリテクノ社のホームページに続いて食べた人のブログが次々と出てくるほどの話題になった。今後は「ブランド卵の加工への用途拡大を考えている」という。

地産地消がコンセプトのライスバウムで使われているのは、アグリテクノをはじめとした福島県産の卵。齋藤さんによれば、「独特の色合いを出すには福島県産の卵が欠かせない」。

三品氏は「トンネル換気の普及が進んで、昔のような環境の悪い鶏舎は減ってきた。さらに各社の努力もあって日本のテーブルエッグの質が全体的に向上してきた今、ブランド化による卵の差別化はひとまずピークを迎えたのではないか。これからのブランド卵は、テーブルエッグだけでなく、加工にも用途が広がっていくはずだ」として、今後は用途拡大に向けた研究開発も視野に入れている。




2012年9月25日号

シリーズ 進化するブランド 65
◎山ア幹男養鶏場
地方発のブランド「原田のこだわり卵」
軟水と独自の飼料で割れない強度の卵殻に


パックではなく、ビニールに入れて売っているのが自信の証拠。強い卵殻だからこそできるワザだ。

夏場でもほとんど割れない卵の秘密は水。鶏の飲用水を軟水に変えたところ、「品質が劇的に向上した」。それまでは井戸水を使っていたが、セラミックで漉す機械を導入した。

同養鶏場が“管理のキモ”としているのは「エサならし」。夏場対策のアミノ酸や独自のぼかしなど、飼料にはなにより気を使う。こうした飼養法による強い卵殻とコクのある卵が固定客を呼び、直売所は年間6万人が訪れる人気となっている。

昔ながらの低床式開放鶏舎で、一部では1羽飼いも実施するなど、古き良き時代の養鶏を続けながらも、経営手法は時代の先端を行く。ブランド化、直売所販売にいち早く取り組み、平成6年には地方局が番組で取り上げ大人気に。そんな成功体験も経た上で、さらに見据えるのは今後の戦略。ブランド化の次は「加工」だという。

「今では卵のブランド化も農家の直売所も一般的になって、消費者が慣れてしまった。ならば次は、まだ誰も手を出していない分野を」と、長崎の隣に位置する福岡という地の利を生かし、カステラに商機を見出す。また、卵せんべいや廃鶏肉の商品化など、鶏の持つ可能性を追求している。さらに卵だけでなく、コメや野菜、竹林を生かしたタケノコまで、“総合農業”を目指している。




2012年8月25日号

シリーズ 進化するブランド 64
◎(株)アイ杉原
吉野川の清浄な水に育まれた「高嶺の卵」
ワンランク上のブランド卵で全国展開へ


まだ「ブランド卵といえばヨード卵・光」だった頃、「そういう世の中の風潮をなんとかしたい」(橋青希取締役)との思いから生まれたのが、「高嶺の卵」(たかねのらん)。「卵はどれも同じだと思われていた」時代に濃厚な甘味とコクの強い黄身を開発、手が届きそうで届かない「高嶺の花」を目指した。

徹底的に追及した味の決め手は、飼料と水。飼料はミネラルを豊富に含んだものを独自にブレンド。同社の前身は飼料問屋で、長年の経験を基に現在の配合法が編み出された

「安全・安心は当たり前。美味しさがなければ」と、ひなは初生から導入。黄身の甘みとコクという味に加えて、ビタミンEを普通卵より約14倍強化。抗酸化作用により体内の脂質を酸化から守り、細胞の健康維持を助けるという。

徳島県上板町と香川県香川町にウインドウレス全自動システムの農場を構える。特に上坂町の農場は清流・吉野川の支流のすぐ脇にあり、鶏に地下100メートルから汲み上げた地下水を与えている。この水は屋根や壁に流して風を送り、その気化熱で鶏舎を冷やす暑熱対策としても利用。

良質な飼料と水による飼養には、思わぬ効果も。「ふんの栄養価が高いため肥料としても優秀らしく、発酵鶏ふんがピーク時には足りなくなるほど引き合いが多い」と、鶏ふんが近隣の耕種農家に評判を呼んでいるという。

2農場20万羽のうち、7割が赤玉特殊卵というアイ杉原。看板の「高嶺の卵」をはじめとする数々の特殊卵のほかにも、温泉卵やうずら卵、たまごかけご飯専用醤油など、商品のラインナップを充実させるだけでなく、衛生管理にさらに万全を期すため、HACCPの導入も検討している。さらに昨年5月からは楽天市場によるネット販売も開始、7〜8割が関東圏からの注文と手応えを感じているが、「もっと知名度を上げていきたい」と、自慢の卵を全国に展開していく態勢づくりを着々と進めている。




2012年7月25日号

シリーズ 進化するブランド 63
◎(有)山田養鶏場
直売所、道の駅、ショッピングモールにも
赤玉の高級卵と白玉のミックスで有利販売


千葉県香取市の本場で約4万5000羽、銚子農場で約25万羽の採卵鶏を飼養する(有)山田養鶏場(山田武久社長)。銚子農場で生産した原卵はインラインで結ばれた提携先(マルトグループ)のGPセンターに全量出荷。赤玉に特化し、消毒剤や殺虫剤を可能な限り使わないエコ養鶏≠ノこだわる、本場の直売比率をいかに高めるかが目下の課題だ。

山田社長は今年67歳。先代の父親が農業の傍ら、自宅の裏で約3000羽の鶏を飼っていた。高校卒業後、愛鶏園の創業者である故・斎藤虎松氏に師事。23歳の時に(有)山田養鶏場を設立した。昭和46年、銚子市に1段ケージで6万羽の養鶏場を新設。63年(平成元年)にAライン3段で5棟14万羽の高床式開放鶏舎に建て替え、4〜5年後に高床式Aラインのウインドウレス鶏舎2棟11万羽を増設している。

直売所「あぐり花咲里(はなざかり)」本店の入口には、遠くからもよく目立つ大看板と鶏卵自販機コーナーを設置。店舗の脇には、烏骨鶏やロードアイランドレッド、横斑プリマスロックが悠然と闊歩する姿を金網越しに見ることができる放し飼いエリアも設けられている。

直売所では、養鶏場直送の産みたてたまご≠中心に、烏骨鶏の卵や地野菜、自然食品、千葉県特産の落花生、手焼き煎餅、多古米、漬物、たこやき、有機肥料などを販売している。主力商品の鶏卵は赤玉が中心で、1個40円の高級卵と、卵殻色がぼけたもの、大玉、小玉の4種類。高級卵は10個入りパック、6個入りパック、自宅用の28個、42個入り、贈答用の30個、50個入りの化粧箱もあるが、売れ筋は28個入り(定価1160円)。

本店のほか、京成志津駅ビル3階に2号店、佐原道の駅にも出店。道の駅では、1畳分のスペースで1日平均4万円、日曜日には10万円、年間1200万円の売上があるというから驚きだ。

今のところ4万5000羽のうち、直売ができているのは1万羽くらい。「店舗が増えても1万5000羽がやっとだろう。2棟分は提携先のGPセンターに売ってもらわなければならない。直売所はどうしても人や施設にお金が掛かる。自動販売機をもっと充実させたいと思っているが、この間もいたずらで自販機のお金の投入口を接着剤で塞がれてしまう事故もあった」と、直売所運営の難しさを話していた。




2012年5月25日号

◎(有)伊豆鶏業
さわやかであっさりとした深みある旨み
五感で食べる「鶏愛卵土」は味で勝負


静岡県伊豆市で「鶏愛卵土」(にわとりあいらんど)を生産、飼料の自家配合を続ける(有)伊豆鶏業の佐藤俊夫社長は「味は理屈ではない。五感で味わってこそ」として、バイヤーには舌だけでなく、見た目や触感でも卵を体感してもらっている。

薄い色をした卵黄を、佐藤氏は「これが卵本来の色」だと主張し、「卵黄色と味には何の関係もない」とカラーファンには目もくれない。卵黄を箸で割ってみると鶏愛卵土はサラサラとこぼれていく。これこそが「後を引かないさっぱりさ」の源なのだろう。

卵白を嗅いでみると、鶏愛卵土はほぼ無臭。これは鶏の体調の違いからくるという。「内臓が弱って消化機能が落ちると、体内にガスが溜まる。そのガスが卵に吸着してイヤな臭いのもとになる。鶏の体調管理にとって大切なものは空気と水」だと断言する。

飼料を自家配合しながらも、「鶏はエサの1.5倍の水を飲む。だったらエサより水の方が重要なのは当たり前」と、水を重視。静岡名産のワサビ田で使う豊かで清浄な湧水を引いて与えている。加えて、山深い土地の農場には新鮮な空気が満ちている。「何より大切」とする空気と水に恵まれた農場の立地条件を、鶏の健康管理に最大限に生かしている。

クセがなくあっさりとした、それでいて深みのある味わいが口の中に広がっていく。これこそが卵本来の味なのかもしれない。

モウルドパックのデザインも、難しそうな講釈は一切なく、やわらかな雰囲気の風景画だけ。主な購買層である主婦に買ってもらうためには「理屈は要らない」。身近に感じて、まずは手に取ってもらうこと。一度でも食べてもらえれば、満足させる自信がある。

集卵作業は、ほぼすべてを人の手に頼っている。洗卵機も半自動で、パック詰めも「人海戦術」。「今は自家配合も時代遅れといわれるが、味のためなら構わない。これからも大手が『あんな面倒なことやっていられない』と思うようなことに挑戦し続けていきたい」とした上で、「今は飼料原料も輸入に頼っているが、未利用資源の活用などで地域に根ざし、異業種とも交流を進めて視野を広げたい」と、今後も独自路線を貫いていく方針だ。




2012年4月25日号

◎北坂養鶏場
純国産鶏もみじとさくらで最高の品質を
「淡路島たまご」とプリンでニーズをつかむ


純国産鶏のさくらともみじで「淡路島たまご」を生産する北坂養鶏場。「たまごまるごとプリン」が好調だが、北坂勝代表は「本当に売りたいのは卵」と断言する。

先代の時代から、初生で導入するひなを自社で育成している。さらに、米ヌカを1割混ぜた独自の飼料設計や鶏ふん処理システムなど、飼養環境の整備にも力を入れている。

鶏ふん処理システムの「レスキュー45」は兵庫県知事賞を受賞するなど、関係者から注目を集めている。「特に高床式で最も頭の痛い問題は鶏ふんだが、このシステムは容積を減量できるのでとても助かっている」。しかも、できたたい肥は養分に富んでいて、島の農家からの引き合いも多いという。

また、絶対の自信を持つ卵をもとに開発した「たまごまるごとプリン」は卵を撹拌して低温で蒸すだけなので「卵の味がよくわかる」と好評で、発売以後、順調に売り上げを伸ばしている。2010年にはフード・アクション・ニッポンアワードを受賞、市場の評価を決定づけた。

しかし、「プリンを始めたのは養鶏場を知ってもらうためであって、本当に売りたいのは卵であり養鶏家である自分」と断言する北坂氏は「どんなに良い卵をつくっていても、それを知ってもらえなければ意味がない」として、さまざまな活動を展開している。

その一つが、徹底した情報公開。鶏ふんの問題のように、普通の生産者なら消費者に進んでは話しにくいような事柄でも、「卵の値段にはふんの処理代も入っているから」として、農場の見学者に積極的に公開している。

直売所をつくったのも、農場内でイベントを開くのも、展示用の平飼いスペースを設置したのも、すべては「あそこの養鶏場ではあんなことをしていると知ってもらいたい」との思いから。「もともと味と品質には自信がある。あとは養鶏場の実態を知ってさえもらえれば、よりおいしく食べてもらえるはず」とも考えている。プリンもあくまでそのための一環だ。




2012年3月25日号

◎やますけ農園
平飼いから生まれる「会津長井生卵」
安心・安全を超えた生命力あふれる卵を


福島県会津坂下(あいづばんげ)町の「何もない自然の中」で平飼いに挑む、やますけ農園。代表の山口英則氏は「安心・安全を超えた生命力あふれる卵作り」を目指している。

「おいしい卵のためには鶏の健康が第一」として、「水も空気もおいしいし、敷料の草も農園の森から取り放題。自然環境に恵まれているので、飼養環境もなるべく手を加えないように」と、究極のアニマルウェルフェアに取り組んでいる。

1ヘクタールの農園に、鶏はわずか400羽。鶏舎は手作りで、風や自然光をふんだんに取り入れている。飼料には地元産のコメを6割配合、大豆かすも地元の畑から出たくず大豆。さらに100リットルの井戸水を毎日軽トラで運ぶ。

「1個10円の卵と80円の卵の価値の違いをわかってほしい」と、地元住民を招いて卵かけごはんパーティを開いている。ホームページに飼養状況の動画をアップしているのも、「農園のありのままの姿を知ってもらいたい」という思いから。

生卵だけでなく、燻製卵や卵黄油も販売。地元産の野菜や味噌と卵のセット販売のほか、産み始めから成鶏までの卵を送り続ける「幸せな鶏達のオーナー制度」の創設など、経営にも工夫をこらす。

山口氏はサラリーマンの家庭の生まれで、大学卒業後は大手メーカーに就職。農業にはまったく縁がなかった。そんな氏が養鶏をはじめたのは、「日本の消費者の舌は世界一肥えているといわれるのに、マトモな卵がほとんどない」と感じたから。純血烏骨鶏の研究家と出会ったことが転機となり、「平飼いの技術も種鶏の技術も、とても勉強になる。今でも師と仰いでいる」。「高級だけどおいしかった」という昔の卵の味の復活に向けて、やますけ農園の挑戦はこれからも続いていく。




 

2012年2月25日号

◎鎌田養鶏(株)
アニマルウエルフェア対応の日本の先駆け
エンリッチドケージから生まれる「養生卵」


普通卵よりもビタミンEを約12倍、ビタミンDを約5倍高めて、機能とおいしさを両立させた「養生卵」。可食部100グラム当たりの比較ではタンパク質が0.3グラム多い一方で、エネルギーはマイナス14カロリー、脂質はマイナス1.2グラムと、機能性は折り紙つき。飼料に天然パプリカを混ぜ卵黄を山吹色にして、見た目にも鮮やかだ。

その養生卵の生産を手掛ける鎌田養鶏(株)では、これまでも鶏の健康に配慮した飼養法「薄飼い」を取り入れていたが、昨年からはアニマルウェルフェア(AW)の動きを先取りし、日本で初めてビッグダッチマン社製のエンリッチドケージを5棟(1棟7200羽。計3万6000羽)で導入した。

「欧州から始まったAWは米国にも広がり、今や時代の要請になっている。日本も今は立ち遅れているが、いずれは対応せざるを得ないだろう」という立川正好社長は、従来から「卵の真の品質とは、その卵を産む健康な鶏を飼育することから生まれる」を信念に、飼養環境を整備してきた。

エンリッチドケージの導入については「鶏が今までよりもさらに元気で健康になったお陰で、採卵期間が長くなった。そのため入れ替えサイクルが2カ月も長くなってランニングコストが軽減した」と、思わぬ効果に目を見張ったという。

さらに「鶏の健康のためにもいいし、卵のためにも当然いい。今後も積極的に取り組んでいきたい」と、年内には農場内の残る2棟もエンリッチドケージに切り替えていく方針だ。

大手がやらないことを

Мサイズ6個170円、10個280円の直売所価格は決して安いとはいえないが、それでも直売所の「たまご畑」には毎日100人前後の客が訪れる。

養生卵を使用した和風たまごロールやはちみつロール、プリンなどのほか、卵かけご飯用のトッピングや玉子焼きの素など、品揃えも多種多様。取材時には若い女性客が卵を2倍使ったプレミアムバニラアイスを購入していた。

しかし、やはり主力の売れ筋は生卵。フリーサイズ2.5キログラム入り1100円(かご付き)が最も売れているという。このかごの中にビタミンやエネルギー、タンパク質、脂質などの成績表を1枚ずつ入れて、消費者に機能と安全性を紹介している。

「犬好きが高じて」と直売所の敷地内にドッグランも設置(冬季は閉鎖)。「犬を遊ばせながらケーキを食べるお客様にも好評」だという。

また、日本の消費者にはまだまだなじみの薄いAWについても、店内にわかり易いポスターを掲げて理解を求めるなど、啓蒙活動も行っている。

農場で発生した鶏ふんを高い技術力で特殊肥料に加工して販売するなど、先進的な取り組みを続ける鎌田養鶏。立川社長は「今後も大手がやらないこと、できないことをやっていく」と話している。




 

2012年1月25日号

◎(株)菜の花エッグ
独自戦略から生まれた「一年生たまご」
エコフィードなど環境への取り組みも


「お客様に卵の価値を認めてもらうため」を第一に考えている梅原正一社長は、独自のマーケティング戦略に取り組んでいる。「まずは売場で足を止めてもらうこと。そして、買っておいしかったら次もまた買ってもらえるような仕組みづくりが大切」とし、お客様に喜んでもらうためのさまざまなアイデアで勝負をかける。

鶏がランドセルを背負ったオリジナルキャラクターをパックにデザインした「一年生たまご」は、ラベルの裏面に季節ごとに卵料理レシピを付け、消費者を飽きさせない工夫を凝らす。正月には元旦から出社して採卵し、「元旦初産みお年玉子」を展開。また、購入の動機や卵黄の色など各種のアンケートを行い、顧客ニーズの把握にも努めている。

同社はエコフィードや、近年は飼料米も使用。「エコフィードも飼料米も、ずいぶん前から取り組んではいたのだが、安定的な地元産原料の確保に問題があった。ところが最近、エコフィードは市川市の企業が、飼料米は県内のプロ農家集団『稲匠会』という安定生産が可能な組織が出てきて、ビジネスベースでも成り立つようになった」という。

「輸入原料は価格が不安定だし、地元で調達できればそれに越したことはない。同じ地元農家として、少しでも手助けになれば」という思いで続けている。

昨年は東日本大震災に伴う福島原子力発電所の事故によって食の安全に対する消費者の信頼が大きく揺らいだが、放射性物質の定期的な検査を行うことで、卵の安全性を実証。安全検査にはコストもかかるが、「お客様に安心して食べてもらうためには必要なこと」と意に介さない。今後も、味とアイデアと安全性で、独自のマーケティング戦略を進めていく方針だ。



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