2015年8月18日現在、農場HACCPの認証を受けた農場数は乳用牛8農場、肉用牛9農場、養豚22農場、採卵養鶏16農場、ブロイラー1農場の合計56農場。農場HACCPは徐々に広がりを見せ、さらに本年4月からHACCPの義務化を視野に、管理運営基準ならびにと畜場法、食鳥検査制度におけるHACCP導入型基準の適用が開始され、今後、日本においても“From Farm to Table”(農場から食卓まで)の一貫した安全性確保が喫緊の課題となり、農場HACCPの必然性は間違いなく高まってくる。
畜産農家は、これまで家畜保健衛生所や畜産協会、畜産物の取引メーカーなどの紹介で勉強会に参加したり、農場管理獣医師の指導を受けながら農場HACCPの導入や認証取得などを進めてきたが、農場HACCP認証取得の機運はさらに高まっている。
それは農場HACCPの導入後の農場内の変化、メリット享受があるからだ。従業員の畜産物生産への安全意識の向上、生産工程における責任分担の明確化、農場全体としての問題解決の取組体制の構築、(酪農であれば)乳質向上と牛群改善に基づく経営の安定化、乳質・乳量の確保と衛生対策の向上、従業員の衛生意識や問題改善の意識の向上、事故の低減と衛生レベルの向上、生産環境の改善と治療薬剤の使用の低減化、迅速な問題解決力の向上、畜産物の安全性確保と衛生レベルの向上に基づく販路の拡大、作業のマニュアル化による生産衛生状態の把握、施設内コミュニケーションの向上と問題意識の共有化などのメリットが挙げられている。
さらに、農場HACCPシステムを継続する上での改善点としては、従業員の技術の高位平準化と情報の共有化、内部検証力の向上と外部支援体制の構築、成果の評価法の開発とそれに基づく従業員の意識改革の推進、従業員の問題解決力の育成とコミュニケーション力の向上、問題意識の向上と衛生管理の徹底、作業分析や作業量の軽減化、PDCA(Plan‐Do‐Check‐Act)サイクルの理解と指導の強化、農場 HACCPの社会への発信、認証取得農業への優遇措置の明確化、リーダー人材の確保と育成、関係書類の効率的利用と文章量の軽減によるスリム化、従業員の教育訓練のシステム化と整備充実などが挙げられており、これらの声に適切に応え、農場HACCPの認証システムの推進が継続できるよう、関係機関は支援体制を構築し、積極的に取り組む必要がある。
本号では、畜産農場からのフードチェーン・アプローチの実現に向けた取り組みについて考察する。また、欧米における家畜の生産段階における安全性確保の取り組み、カナダにおける養豚の生産から加工段階でのHACCPの取り組みなどについて紹介する。
飼料販売、鶏卵の加工および鶏卵加工食品の製造、電気設備工事の施工管理など幅広い業務を手掛ける(株)籠谷(本社高砂市、栗原直樹社長)は、昨年7月から、国際認証規格であるFSSC22000の認証取得に取り組み、平成27年6月17日に登録が完了した。
同社は1921年創業。1964年に会社組織化。まもなく創業100周年を迎える。2002年に県内のGPセンターとしては初めてISO9001の認証を取得。2006年1月に鶏卵分野では最初の兵庫県食品衛生管理プログラム(兵庫県版HACCP)の認定を取得している。さらに2007年には衛生と品質管理の重要性を見据え、ゾーニングをきちんと行い、部屋も仕切るだけでなく、空気についても陰圧・陽圧でコントロールをした鶏卵加工工場「浜風工場」を新設している。
同工場の2階部分では、ゆで卵、マヨネーズ、タマゴサラダ、小袋タイプの液卵などの鶏卵加工品の製造が行われている。同工場ではあまり極端な自動化はせず、人手はある程度かかるが小ロットで対応できる体勢を敷いている。液卵の充填量も顧客によってさまざまで液卵小分けの袋は10種類以上、最も小さいサイズは100グラムと洋菓子店への直販にも対応している。カステラなどに使用する液卵の原料卵の産地の指定や、こだわりを目的とした特殊卵の指定にも対応し、大手の液卵会社とは違った切り口で顧客をつかむ取り組みが好評を博している。
認証取得について西村隆行総務チーム次長は「これまで弊社ではISO9001や兵庫県版HACCPに積極的に取り組んで来た経緯もあり、今回も世の中の動きに合わせた自然な流れであると考えている」と説明。さらに認証取得後の変化として近澤圭フード営業チーム課長は「FSSC22000を取得したことによって、輸出品としての基準をクリアできる。すぐに輸出を始めるということではないが、国際的に通用する安全で品質の良い商品だと証明できることは、大きな強みになっていると感じる。これまで以上に安全性の高い製品を作ることで、取引先ともより深い関係性を築くことができるようになったように思う」と述べた。
また今後の事業展開について栗原社長は「現在は業務筋との取引が中心であるが、このFSSC22000を継続し、籠谷ブランドの食品メーカーとしての仕事を増やしていきたい。卵を使用した製品のフードチェーンの川上から川下まで網羅した事業展開をしていきたいと考えている」と語っている。
洋菓子の製造・販売などを主業務とするモロゾフ(株)(本社・神戸市東灘区、山口信二社長)の社史は、1931年に「神戸トアロード」(神戸の山手と浜手を結ぶ坂道)でチョコレートショップをオープンしたことに始まる(当時の社名は神戸モロゾフ製菓(株)、1936年にモロゾフ製菓(株)に社名変更、1972年より現社名)。現在は、洋菓子製造の他、菓子店舗の運営(直営店13店、百貨店・専門店1018店、喫茶店舗30店、レストラン3店)などにも取り組んでいる(平成27年7月末現在)。
同社は会社設立以来、洋生菓子(カスタードプリン、クリームチーズケーキなど)や干菓子(アルカディア、ファヤージュなど)をはじめ、魅力あるスイーツ商品を提供し続けている。とりわけ1962年に販売を開始した「カスタードプリン」は、今なお同社の看板商品として抜群の知名度を誇っており、2012年には発売50周年を迎えたところである。また、1933年には日本で初めてピロシキを発売、1936年には英字新聞「ジャパンアドバタイザー」に日本で初めてバレンタイン広告を掲載するなど、ユニークな取り組みも展開してきた。1969年にクリームチーズケーキを発売したことは、「チーズケーキブームの先駆け」ともいわれている。
現在、同社は、札幌工場、船橋工場、六甲アイランド工場、西神工場、福岡工場の5工場を運営している。六甲アイランド工場の若林滋氏(管理課・検査担当)は、同社の品質管理や安全性確保の取り組みについて「当社の売上の約7割を干菓子(クッキーなど)が占めていることから、主に干菓子を製造している西神工場で1999年にISO9001認証を取得しました。西神工場での品質管理の取り組みは、他工場でも生かされています」「HACCPについては、まだ導入はしていませんが、(HACCPへの)取り組みを検討し始めています。いくつかの製品を『モデルライン』として選び、HACCPの考え方に基づく管理を試行しているところです」と説明する。
また、現在、衛生管理の課題として感じている点については、「厚生労働省は、将来的なHACCPの義務化に向けた方向性や施策を示しています。そのため、当社としてもHACCPの導入に向けた検討は始めています。まずは、HACCPの基盤・地盤となる『基本的な一般衛生管理』の部分をしっかりと固めていかなければならないと思います。今は、全社的に『改めて、基本的な衛生管理の部分からきちんと見直す』という“意識づけ”に取り組んでいる段階だと思います」「その一方で、(先ほども申し上げたように)各工場ではいくつかの製品を『HACCPのモデルライン』のように位置づけて、実際にHACCP運用にもトライしています。トライする中で、何が足りないのかを見極め、その経験をうまく生かすことで、全社的な(HACCPの)水平展開につなげていきたいと考えています。例えば、六甲アイランド工場では、プリンの製造ラインで焼成工程後の芯温確認をCCPのように管理したり、冷却用の水温などを重点的にチェックしたりしています。要所要所では『HACCPのような管理』はできつつあると感じています」と語った。
「モロゾフのお菓子」といえば、贈答品として購入する消費者も多い。「モロゾフのお菓子だったら、お土産や贈答品として安心して買える――と思っていただけることは、当社にとっての“生命線”です。その信頼感を損なうことがないよう、今後も品質管理・品質保証にブレなく、徹底的にこだわり続けたいと思います。特に洋菓子は、『見た目が美しい』といった『目に見える品質』と、『安全・安心』『美味しさ』といった『目に見えない品質』の両方が求められます。その両方にきちんと軸足を置く――という姿勢は、当社では昔から徹底してきましたし、今後もそのような当社のイメージを壊さないよう検査の立場から管理していこうと考えます」(若林氏)。
京都の伝統野菜として全国区の知名度を誇る「九条ネギ」の生産・加工・販売などを主業務とすること京都(株)(本社・横大路工場:京都市伏見区、山田敏之代表取締役)は、平成14年(2002年)に(有)竹田の子守唄として山田敏之氏が設立(山田氏は平成7年より就農)。その後、平成19年に「こと京都(株)」に社名変更し、平成22年には伏見区横大路に新工場を竣工した。
「こと京都」という社名には「京都をテーマに『こと』(古都・事・言)を発信する」という思いが込められている。「古都」は「京都の昔ながらの良いところを提供する」、「事」は「物だけの提供ではなく、事(ストーリー)を提供する」、「言」は「売ることだけではなく、伝えることにも重点を置く」という理念である。
企業理念は「農業生産法人として人・自然に感謝し、心豊かに社会貢献します」。「自然に感謝し、食の大切さを守り農業を発展させる」「人に感謝し、社員とその家族が幸福に生活できる企業にする」「すべてに感謝し、関わった人・地域に喜ばれる企業を目指す」「社会に貢献するため、心豊かに仕事をする」という理念の下、「農場から加工まで」を一貫した「安全・安心の九条ネギ加工品」の出荷に努めている。
平成22年に竣工した同社工場では、HACCPの考え方を取り入れた設計(ゾーニング、動線など)が施されている。山田敏之社長は、新工場を竣工した経緯について「中国産冷凍ギョウザの事件が社会的問題となった平成20年頃を境に、野菜加工の業界でも高いレベルの衛生管理が求められるようになってきました。そうした状況を背景に、HACCPの考え方に基づく新工場の建設を検討することにしました。後から振り返ると、衛生面で妥協をせずに施設・設備に投資したのは、(ハード面のコストはかかりましたが)『正しい判断だった』と思います」と語る。また、ハード面の整備を行った一方で、衛生管理のソフト運用も重視している。「一人ひとりが、ゾーニングの意味、動線の意味などを、しっかりと理解していなければ、きちんとした衛生管理にはなりません。極端な言い方をすれば、衛生管理は『一人ひとりの意識の持ち方』にかかっていると思います」(山田社長)。
また、同社は、もともとが農業生産法人なので、生産の部門を持っている。山田社長は「当社は『トレーサビリティがしっかりした生産農場』と『最高の衛生管理ができる加工場』を運営しています。これは、当社にとっての大きな“武器”です。私としては『ネギの販売会社として、他社に負ける要素はない』と信じています」と力強く語った。
山田氏は新たな事業として、昨年1月、こと日本(株)を立ち上げ、自ら社長に就任した。「こと京都では、京都産の九条ネギの栽培・加工・販売を行っていますが、こと日本では全国各地のネギを取り扱います。現在、国内でネギを生産している事業者は『販売価格が安いので、その価格に見合った生産をせざるを得ない』という状況の組織が多いという実情があります。しかし、私は『農家が妥協せずに、美味しいネギづくりに努められる環境にしたい』と考えています。そのためには、『美味しいネギ』が『適正な価格』で販売される仕組みを構築する必要があります。そこで、国内生産者が栽培した良質で、安全・安心のネギを供給できるよう、日本の消費量の10%に相当する約4万トンをこと日本で取り扱うことができれば――という構想を持っています。今後も、九条ネギをはじめ、日本全国の美味しいネギを全国の皆様にお届けできるよう努めていきたいと思います」(山田社長)。
(有)たも屋(本社・香川県高松市、黒川保社長)の社史は、平成8年にパチンコ店内でうどん屋を開店したことに始まる(会社設立は平成14年)。同社は四国を中心に店舗展開をしているが、平成25年には海外(シンガポール)、昨年5月には東京・有楽町にも店舗をオープンした。現在、香川県と高知県に各5店舗、愛媛県と東京都に各1店舗、シンガポールに3店舗を展開している。
「町のうどん屋」として店舗数を増やしてきた同社では、製麺の作業について(以前は各店舗で行っていたが)セントラルキッチン方式を採用することにした。そこで、昨年、製麺工場を竣工し、その工場ではHACCP導入に取り組むことにした。なお、このHACCP導入に際しては、農林水産省の平成25年度補助事業「食品産業品質管理・信頼性向上支援事業」のうち、「HACCP低コスト導入手法の普及に関する指導者等の専門家活用支援」を活用しており、(株)スペック(本社・徳島県徳島市、田中達也社長)が構築支援を手がけた。
たも屋・総務部の茨木孝氏は、HACCPを導入した理由について「『国際的に戦える会社にしたい』と考えました。当社は『町のうどん屋さん』から出発して、製麺工場を運営するところまで成長しました。今後、さらに『世界のたも屋』へと成長を遂げるためには、HACCPの取り組みは必要不可欠であることは間違いありません。また、今後は(HACCPだけでなく)ハラール取得も視野に入れています」と説明する。
HACCPの構築には平成25年10月から着手し、半年ほどでPRP(Prerequisite Program、前提条件プログラム)の構築やSSOP(Sanitation Standard Operating Procedure、衛生標準作業手順書)の作成までを行った。その過程について、茨木氏は「いくらSSOPを作成しても、現場の方々から『何でそんなことをしないといけないのか?』といった反発があっては、HACCPは浸透しません。当社には『整理整頓、清掃の手抜きをしません』という行動指針があるので、HACCPの構築に際しては『いかに企業理念と一致させるか?』という点に注意しました」と振り返る。また、SSOPの作成に関しては、「検査による(SSOPの)検証と改善を繰り返すことで、充実を図りました。また、清掃の実施頻度が低い箇所や、普段は清掃しない箇所についてもスケジュール化することで、無理なく工場全体を清掃できるような計画も作成しました」と説明する。
たも屋のHACCP構築を支援している(株)スペックの敏鎌栄祐氏は、今後の課題として「従業員教育」を挙げている。「これまでもキックオフ勉強会やハザード分析勉強会など、さまざまな勉強会を実施してきました。『さまざまな項目について勉強会を開催しなければいけない』という必要性は感じています。また、勉強会のスケジュールも立てています。しかしながら、勉強会の時間を確保し、実際に(勉強会を)開催するのは、なかなか難しいのが実情です。また、仕事の終了後に勉強会を開催しても、みんな疲れているので、なかなか勉強に集中できないものです。そうした背景から、集合教育を定期的に開催するのは難しいので、例えば『店舗ごとに教育をできるようにする』といったような、別の方法での教育体制が構築できないか模索しているところです。また、『どうすれば、従業員一人ひとりが能動的に(HACCPに)取り組むような雰囲気にできるか?』ということも検討しているところです」と語る。
酪王乳業(株)(本社所在地・福島県郡山市大槻町、大竹芳雄社長)は、福島県酪農業協同組合の乳業部門を独立させる形で、2007年(平成19年)に設立した乳業メーカーである。
福島県酪農業協同組合は福島県の酪農の専門農協で、主業務は生乳販売、購買資材販売、家畜市場の開設、家畜の診療・指導事業、乳牛用飼料販売などであり、その沿革は1948年(昭和23年)に福島県酪農販売農業協同組合連合会(略称:福島県酪連)が設立されたことに始まる。その後、1976年に福島県酪連・市乳部が郡山工場を竣工した。なお、福島県酪連は1997年に業務および権利義務を承継する形で、現在の福島県酪農協(単協)へと組織改編された。
「酪王」は福島県を中心に知られるブランドで、そのブランド名は1975年に公募によって決定した。「酪王牛乳」「酪王カフェオレ」「酪王ヨーグルト」など、さまざまな種類の牛乳、加工乳、乳製品が、県内のコンビニエンスストアや生協、量販店をはじめ、学校(県下小中学校250校、大学・高等学校60校)や病院などにも出荷されている。
同社のHACCPの取り組みについては、1998年9月に厚生省(現・厚生労働省)の総合衛生管理製造過程の承認を取得したことに始まる(登録範囲は「乳(牛乳・加工乳)」ならびに「乳製品(乳飲料)」、2007年に酪王乳業(株)を設立した際に承認の再取得をしている)。その後、2009年には本社および本社工場において、品質マネジメント規格であるISO9001認証も取得(登録範囲は「牛乳・加工乳・乳飲料・発酵乳・乳製品・果汁飲料・洋生菓子企画・開発および製造」)。そして、本年4月、ISO9001に代えて、食品安全マネジメントシステム規格であるFSSC22000認証を取得した(FSSC22000の登録範囲は「乳飲料、清涼飲料(コーヒー飲料)のチルドカップ品の製造」、審査登録機関は日本検査キューエイ(株)(通称:JICQA)。
酪王乳業の大竹芳雄社長は、FSSC22000の構築に伴う効果について「『FSSC22000認証取得に取り組む』と決まった時点で、全従業員が『これまで以上に高いレベルの管理が求められることになるだろう』ということは予想できていたと思う。FSSC22000に伴う効果や変化としては、全員の食品安全や衛生管理に対する意識が格段に高まったということが最も大きかったと思う」と語る。
現在、同社では、国際規格であるFSSC22000と、厚生労働省の承認制度である総合衛生管理製造過程を同時に運用しているが、このことについて経営管理部の鈴木伸洋部長は「総合衛生管理製造過程とFSSC22000では、重なる部分もあるし、重ならない部分もある。その2つを運用しているので、従業員には『なぜ2つの仕組みを動かしているのか?』ということを、きちんと理解してもらうことが大切だと思う。例えば、『総合衛生管理製造過程は(危機管理に関する規定などもあるが)“製造・加工段階での管理の仕組み”』『ISO22000やFSSC22000は“フードサプライチェーン全体を視野に入れた管理の仕組み”』といったイメージで違いが説明できるかもしれません。ただし、どちらも『会社を良くするための仕組み』という点では共通していると思う」と語った。
また、今後の取り組みについて大竹社長は「日本では今後、牛乳の消費量が右肩下がりで推移する一方、乳酸菌飲料やヨーグルトなどの消費が伸びてくるのではないかといわれている。当社としても、こうした予測を考慮に入れた戦略を講じていくつもりである。福島県で『酪王』といえば、県内全域に浸透しているブランドだと思う。今後も安全・安心の製品をお届けするのはもちろん、『地域における位置づけ』ということもしっかりと考え、地域での活動も大切にしていきたいと思っている」と語る。
魚肉練り製品や水産加工品などの製造・販売を主業務とする八水蒲鉾(株)は1957年(昭和32年)に八幡浜市内8業者によって設立された企業である。その後も順次工場の拡張や、最新の機械や設備の導入を図るなど、生産基盤の充実に取り組んできた。「食の安心・安全」にも細心の注意を払っており、2005年には工場の老朽化に伴う建て替えを計画し、2006年11月に「創業50周年記念事業」の一環として衛生的な新工場を竣工した。現在も製造設備の拡張は進められており、より一層の生産体制の整備・強化を計画中である。
主力商品は八幡浜名物「じゃこ天」をはじめとする各種魚肉練り製品で、主な販路は四国を中心に九州、山陽、京阪神、中京、関東地区など。最近では、DMによる消費者との直接取引やネットショップも運営している。(編注:じゃこ天=タチウオやゼンゴアジ、ホタルジャコ(ハランボ)などを用いた、愛媛県の名産品の一つ。魚から頭と内臓を除去した後、水洗いし、ミンチにした後、食塩などの調味料、少量のデンプンなどを加え、成形し、油で揚げる)
同社では、「食の安全・安心」に強くこだわっており、2009年2月から「食品衛生7S」(7S=整理、整頓、清掃、洗浄、殺菌、躾、清潔の7項目の頭文字)の取り組みを開始した。同社では2008年4月〜翌年3月にかけてISO9001に取り組んだ時期もあるが、「基本的な衛生管理ができていないと、ISOも『机上の空論』になりかねない」と感じ、2009年2月から7S活動を始めることにした。当初の7S委員会は、社長自ら委員長に就き、品質管理部部長が副委員長、各部署(総務部、製造部、営繕部、営業部など)の責任者が委員として加わった。さらに、7Sの外部アドバイザー(コンサルタント)として東洋産業(株)が2カ月に1回の頻度で7Sに関する現場巡回を受けている。ちなみに、東洋産業は、7S巡回とは別に、防虫・防そを目的とした防虫モニタリング(月1回)も行っている。
八水蒲鉾の富久保仁志社長は、7Sに取り組んだ経緯や効果について「厳しい競争下にある食品業界をいかに生き抜いていくかを考えた時、『安全・安心が当たり前の工場にする』ということは、絶対に必要なことでした。そうした考えの下、前社長の時代に新工場を建てたり、その後も施設・設備の充実を図るなど、さまざまな取り組みをしてきました。さらに、前社長は『当社のような規模の会社が生き残るには、品質管理や安全性確保を徹底することだ』と考え、『ISO9001に取り組もう』『5Sから7Sにレベルアップして取り組もう』と自ら先陣を切って先導しました」と振り返る。
同社では、2013年には愛媛県食品自主衛生管理認証制度(以下、愛媛県HACCP制度)の認証を取得した。品質管理部の末廣修参与は、愛媛県HACCP制度の認証取得の取り組みを振り返って、「すでに7Sに基づくPRP(前提条件プログラム)を構築・運用できていたので、比較的スムーズに認証を取得できたと思います。仕事の内容などで特に大きな変更は必要ありませんでしたが、一人ひとりの意識は変わったように思います」と語る。
今後の課題について、富久保氏は「『より良いものを、より安く』というのは食品企業に共通の課題ですが、その前提条件として『安全・安心』を万全にしていなければ、厳しい競争を生き残ることはできません。7Sのさらなる充実などは今後の課題として挙げられます。また、愛媛県HACCP制度についても、『もっと厳しい内部チェック、内部監査をしよう』という話はしています」と語っている。
産業用ボイラや各種水処理装置・食品機械の開発・設計・販売・メンテナンスを主業務とする三浦工業(株)(本社・愛媛県松山市、橋祐二社長)は、同社を中心とした「ミウラグループ」を構成している。そのグループの一翼を担い、ボイラ用薬品や水処理薬品、造粒塩(軟水装置専用に独自に加工されたペレット状の塩)などの製造を主業務とする三浦アクアテック(株)(本社・愛媛県松山市、宮下幹男社長)は2月27日、ISO22000認証を取得した(認証範囲は「家庭用/工業用軟水装置用途の造粒塩および水処理薬品の製造」、認証機関はDNV GLビジネス・アシュアランス。
三浦アクアテック社は1982年の設立以来、愛媛県東温市の工場においてボイラ用薬品、水処理薬品そして造粒塩の製造、および水処理装置の製造などを行ってきたが、「水処理装置の原材料・部品の受入れから組み立て、試運転、在庫、物流までの一貫工場とし、生産リードタイムの短縮および生産増強を図りたい」という方針の下、2010年4月に水処理装置製造工場、そして昨年9月に薬品製造工場を愛媛県松山市に新たに建築竣工した。
三浦アクアテックでは、「HACCPやISO22000などに取り組む食品企業に、安心して、信頼してボイラを使用してもらうためには、どのようなサービスを提供すればよいか」ということを考え、新工場では設計・施工の段階からISO22000の認証取得を視野に入れることにした。当初は、FSSC22000認証の取得も検討されたが、現状ではボイラ薬品(カテゴリーL:化学薬品製造)が(FSSC22000の)適用範囲に含まれていないことから、ISO/TS22002-1を自主的に組み込んだ形でのISO22000を運用することで、「FSSC22000と同等の管理体制」を構築・運用・維持管理している。
同社の宮下幹男社長は「食品製造においては、蒸気を直接的に使用することもあります。ISO/TS22002-1の規格要求事項を読むと、清缶剤や水処理薬品などのボイラ薬品の安全性は、食品企業にとっては考慮すべき項目の一つであることがわかります。また、レアケースではありますがキャリーオーバー(ボイラ水中に浮遊する不純物や水滴が、蒸気とともにボイラ外に運び出される現象)も想定しておかなければなりません。そうした背景から、当社としては『食品工場で安心して使用できるボイラ薬品です』という説明ができなければなりません。以前の工場では『食品用薬品』と『工業用薬品』を1ラインで製造していました。もちろん、製造間では純水での洗浄や、安全性の確認などは行っていましたが、新工場では『食品用薬品』と『工業用薬品』で調合、充填エリアを徹底して分別し2ラインを設置しました。さらに、ミウラグループとして、さまざまな分野の知識や経験を持った社員を中心に食品安全チームを結成し、原材料の受入れから製造・出荷に至るすべての工程で食品安全マネジメントシステムを構築しています。この強固な管理体制の下、さらに高品質で、より安全・安心なボイラ薬品の提供に努めていきたいと考えています」とコメントしている。
また、三浦アクアテックのISO22000の審査登録を行ったDNV GLビジネス・アシュアランス・ジャパン(株)の出田宏氏は、同社のISO22000の取り組みの特徴について「ISO22000の序文には、『食品安全は、フードチェーンにかかわるすべての関係者の一丸となった努力を通じて確保される』とはっきりと示されています。今回、三浦工業様が、食品サプライチェーンの一員として、食品用化学薬品の分野から、食品安全マネジメントシステム認証を通じた食品安全ハザードを管理するチームに加わっていただいたことを歓迎するとともに、食品安全の達成に向けて非常に心強く感じています。ISO22000は、食品安全に関するマネジメントシステム(簡単にいえば、仕組み)であり、認証がゴールではなく、あくまでも運用の道具という位置づけです。今後も引き続き、食品安全の達成という共通の目的をもって、パートナーとして、長い旅を続けていきたいと思います」とコメントしている。
41年前に食肉問屋としてスタートした(株)ミート・コンパニオン(本社・東京都立川市)は、現在は外食向けの食材や食肉加工品の取扱い、食肉の海外輸出など、多岐にわたる事業を展開している。(株)アグリス・ワン(本社・埼玉県和光市)は、平成18年にMC(ミート・コンパニオン)グループとして事業を開始。アグリス・ワンでは「『品質=安全・安心』『安全で安心な美味しい食肉製品』を『適切な価格』で提供する」という企業理念の下、食肉の処理(と畜)・加工・販売を主業務としている。
同社は、と畜場併設型の衛生的なカット場を有しており(カット場は埼玉県初の海外輸出食肉取扱認定施設でもある)、北は北海道、南は九州まで全国の協力牧場から、さまざまな銘柄の牛や豚の生体が搬入され、当社のカット場で処理している。取り扱っているブランド牛としては、おきなわ和牛(沖縄県)、石垣牛(同)、千屋牛(岡山県)、東京黒毛和牛(東京都)、特選和牛静岡そだち(静岡県)、都城和牛(宮崎県)、さくら和牛(栃木県)、あか毛和牛(熊本県)などがある。また、同社は埼玉県の会社であることから、ブランド牛「彩さい牛」(埼玉県の愛称である「彩の国さいたま」から一文字をいただいた)の国内販売と海外輸出にも取り組んでいる。ブランド豚については、Mの国黒豚(宮崎県)、天城黒豚(静岡県)、狭山丘陵チェリーポーク(埼玉県)、そしてTOKYO X(東京都)などを取り扱っている。
アグリス・ワンは平成25年11月にSQF認証を取得した(審査登録機関はSGSジャパン(株))。同社の福留信行常務取締役は、SQF認証取得を目指した目的について「大きく(1)安全・安心および品質向上の実現、(2)信頼性の向上、(3)海外輸出へ向けた販路の拡大――という3項目が挙げられます。特に(3)については、当社は平成21年に対マカオ、平成23年に対タイの対外輸出食肉取扱施設として、厚生労働省から認定を受けています(いずれも認定の翌年から輸出開始)。今後も海外輸出には注力していきたいと考えています。SQF認証を取得することは、海外企業からの信頼を確保する上で、大いに役立つと考えました」と振り返るとともに、「SQF認証取得に際して、特に苦労したことは(1)書類の作成、(2)記録簿の管理、(3)社員の意識向上――であったと思います。さまざまな苦労はありましたが、その成果として、第一に、場内の衛生管理が行き届くようになり、今まで以上に場内がきれいになりました。前述のとおり、当社は決して新しい工場ではありません。日々の清掃とメンテナンスをしっかりと行うことで、初めて『良い工場』として維持することができます。そして、その取り組みを継続しなければ、「良い製品」を提供することはできないと思います。第二に、社員全員の意識向上が図られました。私にとって、これこそがSQF認証取得に最も期待していたことでした」と語る。
今後については、「国内販売の強化だけではなく、海外輸出にも注力していきたいと考えている。すでにマカオ、タイ、ベトナムへ輸出しており、将来的にはフィリピン、台湾、シンガポールも視野に入れています。SQF認証取得の目的の一つとして『(認証取得を)海外輸出の強化へとつなげること』が挙げられます。しかしながら、現状では(まだ1回目の更新審査を終えたばかりのためか)『SQFを十分に運用できている』という手応えは十分に感じられていません。しかしながら、2回3回と更新審査を受けることで、徐々にSQF認証を取得した“意義”を実感できるようになり、海外ビジネスへも役立てていけるようになるのではないかと考えています」と語る。
日本におけるSQF(Safe Quality Food)規格への関心の高まりなどを背景に、SGSジャパン(株)(本社・横浜市、鈴木信治社長)は11月13日、東京・外神田のUDXシアターで「2014 SQFシンポジウム」を開催した。シンポジウムでは、FMI(Food Marketing Institute、米国食品マーケティング協会)シニア・バイスプレジデント(SQFI担当)のロバート・ガーフィールド氏、SQFIシニア・テクニカル・ディレクターのリアン・チャボフ氏らによるSQFの海外動向やSQF7.2版の概要説明とともに、事例紹介では、プライフーズ(株)八戸本社生産製造本部生産部主任の梅内俊紀氏がブロイラー処理施設におけるSQF導入事例について説明。また、SGSジャパン認証サービス事業部食品認証部主任審査員の水田正氏が日本におけるSQF審査における不適合事例などを解説した。
米国約1500社、海外約200社のスーパーマーケット企業を代表する食品小売企業の境界団体であるFMIは2003年、SQF規格を管理するSQFI(Safe Quality Food Institute)を買収。現在はFMI傘下のSQFI がSQFプログラムを運営。SQFIは2000年に発足して以来、GFSI(世界食品安全イニシアティブ)の活動に積極的に関わっており、SQFはGFSIの承認スキームの一つとして世界的に広く普及している。
日本茶、紅茶、中国茶、コーヒーなどの製造・販売を主業務とする共栄製茶(株)(前河司代表取締役社長、本社所在地・大阪市北区西天満)の社史は、1836年(天保7年)に宇治小倉で「森半製茶所」を創業したことに始まる。その後、1872年(明治5年)に大阪淀屋橋で「松本軒茶舗」が創業し、1918年(大正7年)に森半製茶所と松本軒茶舗が取引を開始。1940年(昭和15年)に森半製茶所と松本軒茶舗の共同により「共栄製茶(株)」が設立された。170年以上の歴史と伝統を誇る老舗で、現在も「森半」のブランドで親しまれている。同社では、製品の安全確保・品質管理、顧客・消費者の信頼確保、揺るぎない企業ブランドの確立に努めており、その取り組みの一環として2006年にISO9001認証を取得。さらに、2013年6月19日には宇治東山工場と宇治久保工場でFSSC22000認証、京都南商品センターでISO22000認証を取得した。
FSSC22000認証の取得に取り組んだきっかけについて、共栄製茶の前河司社長は「緑茶の輸出が増えてきたことで、グローバル企業との取引が増えてきたことなどが影響しています。近年、特に海外の取引先を中心に『フードセーフティ』の観点からの要求が厳しくなってきました。そうした『お客様のニーズ』に応えるために、自主管理としてHACCPやGMPに取り組む必要がありました。そして、実際にHACCPに取り組む中で『フードセーフティの保証は、自社で徹底的にやらなければならない』という気持ちも強くなってきました。また、その一方で『(フードセーフティについては)自社で努力するだけなく、“第三者の目”で見てもらうことも大切ではないか』と考えるようにもなってきました。そこで、『自主管理としてのHACCP』から一歩進んで、『FSSC22000認証の取得』に取り組むことにしました」と語る。
FSSC22000の構築に際して課題と感じたことについて、宇治東山工場の中尾孝義工場長は「第一のポイントとして『ハード面』(建屋)の問題がありました。HACCP運用を前提として設計された工場であれば理想的なのですが、現実のところは、1963年に竣工して以来、時代のニーズに合わせて何度も改築や建て増しを繰り返してきた工場です。そこで、第二のポイントとなったのが『ソフト運用』です。ハード面で対応できない点については、ソフト面の充実を図ることで対応するしかありません。当社では、『ハード面の問題は、ソフトの運用面でカバーする』という考え方を大切にしています。ただし、ただし、ソフト運用は、ルールを決めただけでは成立しません。そこで、第三のポイントとして『人の問題』があります。工場内には「これまでのやり方」で作業している従業員がたくさんいます。そうした方々に、『これからは(これまでのやり方ではなく)新しいルールを遵守してください』とお願いするわけですから、『なぜルールの変更が必要なのか?』という『根拠』について、きちんと説明して、理解してもらわなければなりません。新しいルールが定着するまで、根気強く教育・訓練を繰り返すことが必要になりますが、その作業には苦労がありました」と振り返るとともに、「将来的には『自分たちの実態に合わせたルール』になるよう継続的改善に努め、よりスムーズに運用できるようにしたい、と思っています。特に、自社の実態に合ったPRPをしっかりと構築することが非常に重要であると思っています」と語る。
なお、同社のFSSC22000の審査登録を行ったDNV GLビジネス・アシュアランス・ジャパンの出田宏氏(フード&ベバレッジ部長)は、共栄製茶のFSSC22000の取り組みについて「『製茶』という伝統がある製法の中に、HACCPやFSSC22000のような近代的な考え方を上手く取り入れて、きちんと融合できている点が優れていると思います。『従来どおりの手順』『これまでのやり方』でよいのか――ということを、『ハザード』という観点で考えて、きちんと評価や判断をした上で、自社に合った手順や仕組みを構築している点は、参考にしてほしいと思います」とコメントしている。
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