月刊養豚情報   シリーズ ブランド豚を追う
 

2007年12月号

◎橋爪ファーム(埼玉県・児玉郡)
臭気最減農場から生まれた“安全・安心銘柄”
みんなの和で造り上げた「健麗水・豚肉」


 埼玉県の認定農家である橋爪一松さんは父親から養豚経営を引き継いで以来39年という熟練のブリーダーであり、埼玉県養豚協会の理事も務めている。繁殖は奥さんが担当し、母豚80頭規模で種豚および肉豚として出荷されている。埼玉県の指定種豚場でもあり、先日は種豚の出荷先の農場が最優秀賞の栄誉に輝き、肉豚も枝肉共進会で最優秀賞・名誉賞を幾度も受賞している。出荷された肉豚は「健麗水(けんれいすい)・豚肉」のブランド名で販売されている。「健麗水・豚肉」は、10年近い歴史を持つ銘柄豚肉で、(株)ミカサのシステム導入農場で生産された豚肉は、枝肉・内臓ともプレミアム価格で取引されている。
 当初は「健麗水・豚肉」生産を目的としてシステムを導入した橋爪さんだったが、他にも様々なところでその効果を実感しているという。橋爪さんは仲間30数名と埼北飼料研究会を組織しており理事を務めている。そこで検討した配合設計に従って飼料の配合を完全委託し、栄養管理を徹底しているが、さらにシステムを導入する1年ほど前から離乳子豚の時期から抗生物質を一切添加しない飼料を与えている。
 周辺に養豚場がないという立地条件の良さもあるが、橋爪さんが飼養管理の要素として挙げる「水」「空気」「エサ」の中の「空気」に相当する豚舎環境の管理が行き届き、また適切なワクチネーション・プログラムの実施によって、農場は非常に清浄度の高い状態が維持されている。豚舎の周りを歩いても豚は非常に静かで、断尾もしていない。いかにストレスが少ない状態で飼われているかがわかる。こうした環境とシステムの相乗効果により、健康飼育と薬剤の最減が実現でき、増体や肉質なども顕著に向上させている。出荷日齢は2週間ほど短縮されたという。「もともと事故率は数パーセントでしたが、それがさらに減り、発育が良くなりました。脂質の色は白く肉質も非常に良く、モツは傷みにくく美味しくなりました」とさらに橋爪さん。

 特に肉質の向上にも目を見張るものがあり「取引先の業者さんからもとても高い評価をいただき引っ張りだこで生産が追いつきません」と橋爪さんは感慨深げに話す。ちなみに、橋爪さんの肉豚に対する評価の方法は「ぶくっと太った豚は肉は柔らかいが、本来の風味と食感が減少します。堅太りの豚はロース芯も太く上物率が高く、味があります」とのこと。県内で実施された試食会でも「柔らかく、脂が白く、さっぱりして風味がある」と圧倒的な支持を得たという。
 橋爪さんが出荷する肉豚のうち、日格協の格付けと連動した独自基準により「健麗水・豚肉」として選ばれるのは85%にも上り、関東3市場平均にプレミアムを付けて仕入れる。タカノ三和の高野社長は「『健麗水・豚肉』は一般豚と比べて保水性が高く、肉の乾きが少なく、鮮度劣化の速度が遅い。それは筋肉のきめが細かく、脂肪の締まりが良いということでもあり、ドリップロスも極端に少ない」と高い評価を与えている。現在「健麗水・豚肉」はタカノ三和を通じて関東・東海地方の料亭や専門店およびスーパーで販売されている。また肉だけでなく、内臓もプレミアムがついており、通常内臓が1頭250円程度なのに対して、「健麗水・豚肉」の内臓ともなれば格別高く買い取られるという。



 

2007年11月号

◎鹿児島県霧島市/霧島とろ豚牧場
種豚屋がこだわり、霧島の自然が育んだ黒豚
さらなる強健性、高品質な枝肉と肉質を目指す


 「種豚屋がこだわり、霧島の自然が育んだ『とろ豚』」。鹿児島県霧島市福山町で32年間にわたり養豚を営む「霧島とろ豚牧場」(米平種豚場、日本養豚協会種雌豚指定種豚場179号)の代表、米平光伸武さんの高度な育種技術がグレードの高い黒豚を作り上げ、種豚としての能力とともに、その肉が注目を集めている。 「色々な品種の豚を育ててきましたが、バークシャーは夏場にも強く、雑食性で、サツマイモのツルでも育つので、まさに鹿児島の風土に合っています」と、米平さんはとりわけバークシャーの育種に精力を傾け、長年培ってきたその技術を次世代に伝えようと奮起している。米平さんは過去にバークシャーだけでなく、デュロックなどの品種についても数々の優良種豚を作出し、全国の名だたる企業養豚などにも提供してきた。育種技術には定評がある。「原種豚を常に創造すること、時代、時代の流れがあり、現状に満足しないことが大切」というのが米平さんの信条だ。育種面だけでなく、飼料にもとことんこだわる。飼料の主原料(ほぼ70%)は南九州産サツマイモで、最近ではそれを発酵させ、そこに天然ミネラル(SGEパウダー)やプロバイオティクス商品(みのり産業(17)の「ミノラーゼ」)を与えている。

 水にもこだわり、「SGE活水器」と波動情報水を活用。超電磁波放射天然鉱石を粉末にした「SGEストーン」(製造・販売元:オンリー(株)(大分県別府市)に水を通すことでクラスターを小さくし、吸収率を高めている。ちなみに、SGEは養豚場の消臭にも効果があり、実際、米平種豚場の近くに来ても農場があるとは決して思えないほど、臭いがないことにも驚かされる。
 肉色は比較的赤みの強い通常の黒豚と違い、「とろ豚」は淡灰紅色に近い色をしている。サシがかなり入っているのも、黒豚では珍しい。そういう体質を持った黒豚を作り上げる技術と独自の飼料により実現する、米平さんならではの妙技である。味は甘みとコクがあり、まろやかで、口当たりが良い。日持ちがよく、当然、肉の臭みがない。熱を通しても肉が縮みにくいため、筋切りをする必要がない。立地条件が良いこともあり、豚は疾病もなく健康にすくすく育っているため、余計な薬剤などが使う必要がなく安全性も高い。
 高齢化により近年県内の指定種豚場の廃業が相次ぎ、米平さんは「我々世代が黒豚などの優良資源を次世代に残していく責任があります」という使命感のもと、さらなる強健性、高品質な枝肉と肉質を目指している。



 

2007年10月号

21銘柄が安全・安心、美味しさをアピール
“アグリフードEXPO2007”

 8 月28日、29日の2日間、東京・有明の東京ビッグサイトで「アグリフードEXPO2007」が開催された。国産農畜産物の販路拡大を促進し生産者を支援することを目的に農林漁業金融公庫が主催するこの展示会は今年が2回目の開催で、昨今の食の安全性に関する事件発生などから改めて安全な国産物への関心が高まり、2日間 で9675名の来場者で賑わった。

●本誌関連の出展者および出展品(順不同)

旭食肉協同組合(千葉県):「いもぶた」
(有)伊豆沼農産(宮城県):「伊達の純粋赤豚」
伊藤忠飼料(株)(東京ほか):「燦然」(さんぜん)
(有)江原養豚(群馬県):「えばらハーブ豚 未来」
(株)エルマ(群馬県):「とんとことん」
(株)ガイアテック(鹿児島県)貝化石層から採掘される「アラゴナイト貝化石」を添加した飼料「アラゴフィード」を与えた豚肉
かながわ夢ポーク推進協議会/(株)高座豚手づくりハム(神奈川県) 「かながわ夢ポーク」
(有)久慈ピッグファーム(茨城県):「奥久慈ポーク」
(有)敬友農場(山形県):「敬華豚」
(株)幻霜ファーム(広島県):「幻霜ポーク」
(有)三和畜産/とんきい(静岡県):「ふじのくに浜名湖そだち」
(有)ジェリービーンズ(千葉県):「元気豚」
ジャパンミート(株)/(有)レクスト(宮崎県):「SPF霧島高原“味彩豚”」「梅肉ポーク」
館ケ森アーク牧場/(有)アーク(岩手県):「館ケ森高原豚」「風と土と太陽の豚」
マーガレットポーク研究会/千葉県食肉公社/(農)加納畜産/(株)ラクトフーズシステム/イワタニ・ケンボロー(株)(千葉県):「マーガレットポーク」
(農))南州農場(鹿児島県):「かごしま黒豚」
(株)はざま牧場(宮崎県) 「はざまのきなこ豚」
(株)ヒュース/(有)ポークランドなかつかさ/(農)十勝ホッグファーム(北海道):「十勝野ポーク」
(株)フリーデン(神奈川県ほか):「やまと豚」
ポークランドグループ(秋田県):「十和田高原ポーク『桃豚』」
味麗(みらい)生産者グループ(茨城県、埼玉県):「味麗」(みらい)




 

2007年8月号

◎神奈川県相模原市/小田急エコロジーセンター
消費者に理解してもらえる生産・流通体制目指す

 小田急電鉄(株)では、同社グループの食品スーパーやホテルで発生した食品残さを飼料化し、豚肉のブランド化に取り組んでいる。グループの流通店や駅ビルや飲食店、ホテルや一部のスーパーなどから発生した食品残さを、同社グループのリサイクル拠点である「小田急フードエコロジーセンター」で液体飼料に加工し、契約養豚農場に提供。その飼料で育った豚肉は、既にスーパーマーケット・チェーンの(株)エコスで販売されており、今年中には小田急グループの百貨店やスーパーでもこの循環システムを利用した同社ブランドの肉を販売する計画だ。
 現在、食品残さの受け入れは1日約15トン。そのうち3分の1が小田急百貨店などの小田急グループから、残り3分の2は主に沿線の工場やショッピングセンター、スーパー、飲食店舗から発生する食品残さであり、2年後には1日39トン受け入れのフル稼働を目指している。破砕された食品残さは加熱殺菌処理され、さらに発酵タンクに移された後、40℃程度に冷ました段階で乳酸菌を投入し発酵させる。こうして出来上がった飼料は「エコフィード」(液餌=リキッドフィード)としてタンクローリーで提携の養豚農場に搬送される。「加熱殺菌を行うことでより安全性を高めることができ、さらに乳酸発酵を行うことでプロバイオティクス効果も高められる。また、加熱処理により酵母など微生物や菌が死滅し、乳酸菌が繁殖するため、保存性だけでなく腸の健康も維持できる」と、小田急エコロジーセンター顧問の高橋巧一さんは話す。
 供給先の農家の要望に応じてハーブを混ぜたり、ビタミンEを入れたりときめ細かな対応もしており、定期的にアミノ酸や脂肪酸の組成なども提出。また現在でも、大学や研究機関との研究を重ねている。「このエコフィードは10トンのタンクローリーで運搬しており、人件費や高速代等も含めて約5円/キロで、豚が1日に10キロ食べたとしてもトータル6000円で済むことになります」と高橋さんは説明する。

(有)亀井畜産(神奈川県伊勢原市、亀井隆社長)は、昨年2月よりエコフィードによるブランド豚肉の生産・販売を行っており、亀井さんの生産する豚肉は、「旨香豚」のブランド名でスーパーマーケット・チェーンの(株)エコスにて販売されている。同社では現在6店舗で「旨香豚」を販売しているが、他の豚肉に比べてやや高めであるにも関わらず、いずれの店舗でも1週間に1頭のペースで売れており、リピーターは確実についている。
 「エコフィードだからできる差別化商品を生産・流通し、リピーターになってもらえるような商品にしたい。かつヘルシーさや美味しさ、安全性などを全面的に打ち出し、消費者に理解してもらう取り組みをやっていきたい。人口減が進み、地域間競争が激しくなる中、沿線地域の魅力を高めることは鉄道会社として重要な課題。沿線の店舗や工場から発生する食品残さを飼料化し、それを食べた豚肉を沿線の消費者に行きわたらせ、沿線の店舗や企業の活動を支援することでさらに店舗を集めるなど、目標は高く持ちたい」と高橋さんは話す。



 

2007年7月号

◎熊本県菊池郡/(有)コーシン・阿蘇大津ファーム
熊本県発のブランド豚肉「ひごさかえ肥皇」

熊本県農業研究センターが平成7年より8年の歳月をかけ系統造成し、全国でもトップクラスの発育、繁殖、哺乳能力を誇るランドレース種の「ヒゴサカエ302」。この「ヒゴサカエ302」を基礎として、組み合わせ検定により推奨された大ヨークシャー、デュロックを掛け合わせて生産した県産ブランド豚肉が今年3月28日より販売開始された。ブランド名決定に当たっては一般公募を行い、全国から寄せられた1400点近い応募作品の中から、くまもとブランド豚肉推進協議会が選考し、「ひごさかえ肥皇」と命名された。

「ひごさかえ肥皇」の認定基準は(1)熊本県内の認定農場で生産され、(株)熊本畜産流通センターで解体処理し、流通するLWDまたはWLDの肉豚で、飼料は麦類を10%以上給与し、抗生物質などが添加されていない仕上げ飼料を60日間給与、(2)枝肉重量は70〜82.5キロ、肉色が鮮やかで適度な固さ、粘りがある良質な脂質を有し、かつマーブリングが確認できるもの(筋肉内脂肪3%以上、(3)安全・安心生産農場確認基準を満たし、トレーサビリティシステムを採用しているもの。これらすべてを満たす豚肉のみに「ひごさかえ肥皇」認定シールが貼付され販売される。

母豚400頭規模の(有)コーシン(熊野義幸社長)は、現在唯一の「ひごさかえ肥皇」認定生産農場。豚肉の安全確保を念頭に、ごく自然に健やかに育てるという「健育美味」をコンセプトに豚肉生産を行っている。成熟した肉質にするために、170〜180日間じっくり時間をかけ、113〜118キロに飼育。防疫に優れたSPF豚で、萎縮性鼻炎(AR)、流行性肺炎(SEP)、豚赤痢、トキソプラズマ症、オーエスキー病の5疾患を排除。「ひごさかえ肥皇」の飼料には金納興業(株)(福岡県柳川市)が供給する、良質のデンプンを豊富に含むスチームフレーク加工マイロや麦などが主体の、動物性原料を一切使用しないコーシンの指定飼料「あそ育ち・ひご仕立」を使用し、日持ちや風味、締まりがよく、くせのない脂肪を持つおいしい豚肉に仕上げている。また、(株)日本リモナイトの阿蘇天然ミネラル「ライトミネラル」を添加することで、ストレス解消、各種疾病に対する抵抗力の向上を図り、母豚の健康維持、肉質改善、悪臭防止に努めている。さらに、飼料内容、給与体系、飼料添加物の内容、ワクチン・治療薬の内容、接種時期、生産成績、出荷成績など、生産履歴が追跡できるシステムも確立している。

熊野社長は「高品質のブランド肉を維持するためには、素豚・飼料のみならず、飼育環境が重要。今後はグループ化しコンサルタントを入れるなどして肉質の安全を目指し、厳選した肉豚をブランドとして出す」と話す。



 

2007年6月号

◎ 岩手県一関市/(有)一関ミート
自農場産豚肉をマイスターの技術で加工
技術研鑽と地域貢献重視の姿勢貫く


「いちのせきハム」ブランドのハム・ソーセージ・ベーコンなど約50品目、年間45トンを生産する(有)一関ミート(岩手県一関市、石川和宣社長)。 同社で使用する原料はすべて、市内で自ら経営する石川ファームから出荷される肉豚を使用する。

石川ファームは母豚100頭規模の一貫経営で、大ヨークシャー種(W)、ランドレース種(L)、デュロック種(D)、バークシャー種(B)の4品種から良質な豚肉が生産されるよう選抜・改良し、LWDやLWBの肉豚を生産。トウモロコシや大豆粕などの穀物を主原料に、栄養バランスのよい飼料を農場内の自家配合施設で発育段階別に製造、給与する。養豚場周辺は豚の成育には程よい冷涼な地域で、また豚舎は開放型でできるだけ自然の外気や太陽光を取り入れ、きめ細かな飼養管理と徹底した衛生管理を行う。密飼いをしないため豚はストレスがなく、非常に健康、良好で抗生物質などはほとんど使用しない。豚のふんをコンポストで好気性発酵させた良質なたい肥を生産しており、この有機質肥料を放肥して栽培した安全でおいしいお米(品種・ひとめぼれ)は例年、食味Aの評価を獲得している。

加工事業進出の際に石川さんが最も大切にしたのは「物づくりというのは技術が基本になるべきだ」という理念。技術を磨かなければ生産コストも下がらないと考え、製造加工ラインの見直し・改善を徹底的に行った。また、本場のハム・ソーセージ技術の習得のため、現在専務取締役を務める長男の聖浩(まさひろ)さんがドイツに留学。石川さんの姿勢は一貫して厳しく、「価格はお客さんが決めるもの。お客さんに選択されるようなものを作る技術があれば広告宣伝費はまったく必要ない」という通り、一関ミートの加工品には多くのファンがいる。

「一次産業の養豚生産、二次産業の加工、三次産業の流通販売、それら統合し六次産業として展開することが本当に足腰の強い産業になる」というのが石川さんのコンセプト。一関市内の団塊世代を対象にした「熟年帰農塾」の塾長に就任。また、農業や農産加工、職業教育や環境政策などについて学ぶため、これまでに十数回もドイツなどヨーロッパの研修ツアーを企画してきた。

「農業の生産者も金儲けだけでなく地域貢献を目指して脱皮しなければならなければ、地域社会の中で認知されない。養豚も同じで社会的に認知される動きをしておかないと、養豚業と地域社会が遊離してしまう」と石川さんは語る。


 

2007年5月号

◎ 三重県志摩市/(有)河井ファーム肉よし
地元で愛される豚肉を目指して――
選りすぐりの豚肉『パールポーク』


 年中を通して温暖な気候に恵まれ、自然豊かな観光地としても有名な三重県志摩市。河井金昭さんはこの地で(有)河井ファーム肉よしを経営、自社銘柄豚「パールポーク」を生産している。パールポークは自家生産したWLの雌豚に、コンサルタント獣医師・山本一郎氏が推薦するデュロックを用いるほか、(有)メンデルジャパン(中部センター・愛知県小牧市)から精液を導入。AIが8割、本交が2割で、河井ファームで生産される豚から選抜されたものがパールポークとなる。離乳の段階から体格の大きい雌豚に限定し、肥育豚舎でも肩幅が広く体型のがっしりしたものを選ぶなど、生産性よりも肉質を重視した生産を行っている。
 飼料には、東海地方の養豚家を中心に構成されるやまびこ会(稲吉弘之会長)オリジナルの配合飼料を使用。仕上げ期の飼料を微調整し、大麦や場合によっては木酢を加えることで肉の臭みを消し、ワンランク上の肉質に仕上げる。「以前使っていた飼料に比べて、豚の食い込みが目に見えて変わったし、肥育成績や肉質も格段に向上した」と河井さんは話す。
 河井さんがやまびこ会に加入した5年ほど前、すでに世間では銘柄豚ブームが始まっていた。

 もともと「パールポーク」という名前は、肉よしで販売する自農場産の豚肉につけられていた名前だったが、これを機に銘柄豚としての品質の見直しを決意。通常出荷の豚との差別化を開始した。同時期に老朽化が進んでいた豚舎の全面改築も計画し、稲吉会長とあちこちの豚舎を見学。作りたい豚肉を生産するために理想的な豚舎をじっくり吟味した。さらに、三重県の南勢家畜保健衛生所の指導のもと、HACCPシステムによる生産体制の構築にも着手。「ずっと自己流で仕事をしてきたので、作業の流れを見直すよい機会ではないかと思い取り組んだ。最初は訳がわからず大変だったが、完成した今は取り組んでよかったと思う。毎日の作業が明確になり、問題点やミスがあったときの原因究明など、すぐに対応できるようになった」と河井さん。
 パールポークは現在、河井さんが経営する精肉店「肉よし」での限定販売で、レストラン等の取引先に運ばれる。出荷頭数は月平均360頭で、そのうち8%(月平均30頭)がパールポークとなり、その他は「やまびこ豚」としてJA全農みえを通して地元の大手小売店とも取引されている。パールポークの特徴は、脂身にくどさがなく、ほのかな甘みがあること。そのためバラ肉でも非常に食べやすく、お年寄りや女性にも好評。しゃぶしゃぶ用にスライスしたロースやバラ肉が人気で、まとめ買いをしていくお客さんも少なくない。
 河井さんは今後の目標について「店のスタッフとコミュニケーションを取りながら、消費者がより手にとってくれるものを目指していきたい。私の目標は『志摩の豚肉といえばパールポーク』と言われるようにすること。この地域の人たちが食べる豚肉は、すべてパールポークとしていきたい」と語る。


 

2007年4月号

◎ 茨城県鉾田市/佐伯畜産
ユーザーから高い評価、取引量着実に拡大
サシと味にとことんこだわる『霜ふりハーブ』


 茨城県鉾田市で母豚250頭一貫規模の養豚を営む佐伯淳さん(50)。以前は、肥育専門経営だった。しばらくして子取り専門農家に転身したが、デンマークで口蹄疫が発生し対日輸出が禁止された昭和57年頃から子豚の取引価格が急落しはじめ、子取り専門経営から肥育までを行う一貫経営に転換した。母豚100頭程度だった佐伯畜産は徐々に規模を拡大し、現在は母豚250頭に。選りすぐりの種豚と各種ハーブを配合した混合飼料で、サシと味にとことんこだわったブランドポーク「霜ふりハーブ」を生産している。
 淳さんが長年交流のある宮城県のブリーダーから種雄豚を導入。10年以上かけて選抜した選りすぐりのデュロックの雄豚と、自家生産しているLWの雌を交配させLWDの肉豚を生産している。その肉豚の特徴は、なんといっても「サシ」。「選りすぐりのデュロックだからこそ」と淳さんは種雄豚の良さを強調する。
 飼料には、日本農産工業(株)の種豚用と肉豚用の前期・後期を使用し、さらに「ハーブ混合飼料」を添加し給与している。締まりを良くするために塩を添加したり、麦が10%配合された飼料を与えたりと試行錯誤を繰り返し、ようやく現在の配合内容となったという。

 農場では、息子の尚孝さん(25)が交配を担当している。尚孝さんは飼料会社の九州にある農場で2年間、生産管理の研修を受けた後、大手企業養豚の農場で人工授精(AI)の研修も受け、その後、家業の養豚経営に加わり、父、淳さんと相談しAI導入に踏み切った。精液を自農場で採精し、昨年10月から一気に100%AIを踏み切ったのである。「雄で試して、接触させてから付ける」と尚孝さんはAIでの工夫についてこう説明する。尚孝さんの驚異的な技術力とも言えるが、総産子数は15頭、16頭というのも珍しくなかったという。ちなみに母豚の更新率は自家生産で繰り上げて40%程度。 現在、全頭が「霜ふりハーブ」として取引されているが、今後は「○○スペシャルポーク」のように、より良いものは「霜ふりハーブスペシャル」といったワンランク上のブランドにしていきたいという。「少々高くても美味しいものを食べる時代だし、とにかく店頭に並んでいる他の豚肉と比べてもらいたい」と淳さんは自信満々だ。


 

2007年3月号

◎ 米国オハイオ州グリーンビル/ツイン・パイン・ファームズ社
米国に根付く職人「ピュアラインブリーダー」
家族経営ならではの高度な品質と衛生管理


 本誌連載中の米国バイテクツアー報告で紹介した米国・オハイオ州のツイン・パイン・ファームズ(ビル・ファンダーバーグ社長)は、ピュアラインの系統造成を行う家族経営の育種会社で、大ヨークシャー種とハンプシャー種の優良な純粋種を選抜、育成している。
 同社の種豚の60〜65%が輸出向けで、日本以外にも中国や韓国、カナダ、パナマなどにも輸出実績があるという。各国の嗜好に合った純粋種を選抜していることが自慢で「中国は小さな豚を好むし、日本や韓国はもう少し大きいのを好む。日本向けには肉質重視の豚を用意している」と話す。
 米国では、大手の育種会社に押され、ファンダーバーグ氏のような家族経営のピュアラインブリーダーは年々減少している。同席した家畜スペシャリストのラリー・ベイカー氏もファンダーバーグ氏のことを「彼こそ本物の遺伝育種分野の技術者だ。大会社はたくさんの人を雇用しているが、育種の専門性は耐えてきている。本当の育種オペレーションがここにある」と話した。

 もともと病気の発生が極めて少ない地域ではあるが、同社の周辺には他の養豚場はなく、バイオセキュリティについても徹底している。以前は100エーカーのトウモロコシ農場を持ち、飼料の自家配合を行っていたが、現在はベイカー氏の指導により配合飼料に切り替えた。また、豚は他農場からは受け入れず、アイオワ州の施設で血液検査した精液のみを導入している。米国でもPRRS(豚繁殖・呼吸障害症候群)などの呼吸器系ウイルス疾患は重要な問題となっており、多くのワクチンを投与している農場も多い。しかし同社の農場ではPRRSもPMWS(離乳後多臓器性発育不良症候群)など、大抵の病気はフリーである。
 ファンダーバーグ氏は「父から受け継いだピュアブリッドの仕事を55年間続けてきたが、今では状況が大きく変わってしまった。大手の育種会社は効率ばかりを気にして、ピュアであること細かな品質は気にしない。ヒューマンタッチも重要で、コンピュータ上のデータだけを見ていてもだめだ。母豚を見て、飼料を見て、その斉一性を見ていかなければならない」と語る。
 ピュアラインの血は家族経営の育種会社の衰退によって急激に絶えつつある。10年先を考えると、選択肢の一つとして考えることもできるのではないか。


 

2007年2月号

◎ 愛媛県八幡浜市/日野出畜産(有)
“日本一美味しい豚肉”作り 日野出畜産のネッカ豚肉
空気と水とネッカリッチetc.の相乗効果


 「一度食べたら他の豚肉は食べられない」―と定評のある銘柄豚肉を生産する日野出畜産(有)(竹内憲幸社長)は、母豚470頭の一貫経営。以前は50頭の繁殖経営を行っていた同社が、臭気対策に使用してきたネッカリッチを柱に、日本一美味しい豚肉作りに挑戦し始めたのは今から20年前。300頭一貫経営からのスタートだった。現在の契約先の一つである香川県のマルヨシセンターから「美味しい豚肉を独占販売したい」との申し出があった平成8年から、定時、定量、定質で年間約1万頭を出荷している。
 さまざまな試験を積み重ねて完成した日野出畜産のネッカ豚は、脂肪に甘みがあり、柔らかくも程よい噛み応えがあるのが特徴。獣臭もなく、アクも出ない。さらに、保水性がよく、ドリップはほとんど出ないという。これはネッカリッチとともに、山林に囲まれた空気のよい環境と、セラミックスを用いて電磁水にした水、飼料に添加する貝化石のカルミン・ネオによる相乗効果によるところが大きい。

 同社の竹内日出男取締役は「種豚から子豚、肉豚にまで、すべての豚にネッカリッチを食べさせることが、美味しい豚肉を定時・定量・定質で作ることの基本」であると話す。肉豚は年間を通して180日齢、120キロまで育てられる。夏場においても枝肉重量が70キロを切ることがなく、平均重量75キロをキープしている。
 さらなる肉質向上のため、ネッカリッチの製造・販売元である宮崎みどり製薬(株)が開発し・実用化した牛の粗飼料であるウットンファイバーを、肉豚舎のオガ粉床に使用する実験を行っている。これにより環境がより改善され、肉豚の出荷が1週間早まったという。
 よりよい豚肉作りのため、たゆまぬ邁進を続けている。


 

2007年1月号

◎ 長野県飯田市/(有)ハヤシファーム  
こだわりと優しさで1頭ずつ大切に育てた
中ヨークシャー系のおいしい豚肉「幻豚」


 長野県南部の南アルプスと中央アルプスの間にある三穂立石の畜産団地で90頭(中ヨークシャー10頭、YW80頭)の一貫経営を行っている農業生産法人(有)ハヤシファームの林喜内さん夫妻は、恵まれた自然環境の中、一頭ずつ大切にきめ細やかな飼育を行った中ヨークシャー系の「幻豚」を販売している。
 大きな頭としゃくれあがった鼻が特徴である中ヨークシャーは、明治39年にイギリスからバークシャー種とともに輸入され、昭和30年代には全国の飼養種豚の80%を占めていた豚種である。しかし、養豚の飼育形態が庭先から多頭飼育へと移行したことや、産肉性や発育が劣るといった経済性の面からも飼養戸数、頭数が減少。体型も小さめで産子数も少ないため、生産性の高い大型品種に取って代わられ、現在ではほとんど見られなくなってしまった。しかし、生産性と肉質は相反する傾向があり、その肉質はきめ細かく、脂肪の質も優れたおいしい豚肉である。「中ヨークシャーはのんびりとした性格の豚で、神経質でないからこそ美味しい脂が乗る。能力を最大限に引き出すため、ゆったりと飼養することを心がけている」と林さん。一般豚は生後180日前後で出荷を行うが、「幻豚」の出荷目標は210日齢。70日齢で30キロ到達を飼養の目安にしている。
 YWD(中ヨークシャー×大ヨークシャー×デュロック)の交配によって誕生した「幻豚」は(1)肉がきめ細かい(2)柔らかい(3)甘みがありグルタミン酸を多く含む(4)ビタミンEが一般豚の約2倍、などの特徴を有する。性成熟の段階で均等に入る霜降りも、「幻豚」の柔らかさをさらに際立たせる。また、調理時に肉の端があまり縮まないことも特徴の一つである。
 「幻豚」に与えるのは、サツマイモを主体とした芋50%配合の飼料。動物性タンパク質を使わない、純植物性の安全で美味しい飼料を使用する。また、ハーブやプロバイオティクスなどの生菌を与え、抗生剤に頼らない元気な豚づくりを実践している。さらに、信州伊那谷の地下100メートルから汲み上げた天然水に特殊処理を施したものを豚に飲ませている。
 林さんは、丁寧にこだわりながら育てた「幻豚」の肉質・脂質を、と畜後にフィードバックした自分の豚肉を見ることで確認している。また、生産者として自信を持って「幻豚」を提供するために、生年月日、性別、父豚品種No、母豚品種No、出荷生体重などの情報も提供している。「お客さんのために」を第一に、「もっとおいしい豚肉ができる可能性はないか」と自信に問いかけながら、林さんは今後も肉質の品質向上を追及し続ける。 る。


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