岐阜県下呂市の精肉卸・販売、加工品製造を主業務とする「(株)天狗」(下呂市萩原町、戸谷吉之社長)と堀田農産(有)(堀田秀行代表取締役)は2009年12月、新ブランド豚「納豆喰豚」(なっとくとん)の精肉・加工品などの製造・販売事業が農商工連携事業として認定され、2010年4月より本格的な販売を開始した。
堀田氏は「生産において、肉の付加価値として飼料を厳選したり豚舎の環境改善を図ったりと、さまざまな取り組みを行っているが、そうしたコストをかけてできあがった豚肉が、市場の売上では農家に利益が還元されづらいのが現状。連携事業に取り組むことで、付加価値の見返りを小売店が補償してくれる形をとれればと考えていた」と話す。
また天狗の戸谷社長は「市場価格の問題点は、豚肉の価値ではないところで販売価格が決定されるが、生産経費に合わせた値段で販売しないと農家にとっては苦しい形になってしまう。高い品質なら通常の肉より値段が高いのは当たり前のことで、消費者には安全性と品質の面で本当においしい肉なんだということを納得してもらった上で対価を払っていただいている」と話す。
「抗生物質の使用を極力控えた健康な豚を育てたいという思いと、豚舎の環境改善を考え、さまざまな添加物を試し、この納豆粉末にたどり着いたのだが、そうした取り組みが、肉の味についても良い結果を出してくれた」とも堀田さんは話す。
販売される豚肉を求めて連日たくさんの消費者が店を訪れており、くさみのない肉質を生かしたロースやバラのしゃぶしゃぶ用スライスや、ステーキ用に分厚く切り分けたロースが特に人気のほか、加工品では「なっとく豚ハム」が好評を得ている。この豚肉を食べてからは、調理した時の臭みや食感が気になって、他の豚が食べられないという消費者も多いという。
戸谷社長は「品質のばらつきが少ないというよりも、豚自体が健康であることが非常に大きいと思う。また、毎週月曜に入ってくる肉は1週間でほぼ全部売り切ってしまうので、冷凍庫のストックを提供するということがほとんどない。新鮮なものがどんどん回転するので、常に新鮮でおいしい肉を提供できている」と胸を張る。
「納豆喰豚」は現在、下呂市内の30店舗の飲食店やホテル、旅館等で取り扱われている。新しい名前で再スタートを切ったことで、「下呂市にしかない特産品」という面がより強調され、取引を考えたいという声が上がっており、ますます注目を集めている。
また、「納豆喰豚」を気に入り、地元のお土産として県外に紹介する消費者が現れるなど、口コミでの人気も徐々に広がっている。
「特産品を都会に持って行って売るのではなくて、この土地に来て特産品を味わってもらうのが目的。この地域にあってこそ価値が高まっていくと思うし、相乗効果で地域そのものの価値が高まってくる。この土地には「納豆喰豚」だけでなく、飛騨牛もあるし、お米もある。また温泉や、自然に恵まれた観光名所としての側面も強い。そういったさまざまな面が結びついて、地域興しにつながることが目的のひとつでもある。地元で「納豆喰豚」が人気を得ることで、周辺産業が発展していけば。例えば生産農場を拡大することで、若い人が継いでいってくれれば嬉しいし、結果的に地域が潤うことになるのではないか。それこそが本来の農商工連携の形だと考えている」と堀田氏は今後の展開に大きな期待をかける。
下呂市の特産品として地域に根差した銘柄豚の販売として、今後の動向が注目される。
養豚塾主宰、ピッグスペシャリストとしてお馴染みの山下哲生氏が、黒豚生産のための器具機材あるいは人工授精などの技術的な支援を行うべく、養豚の本場、鹿児島県曽於郡大隅町(現 曽於市大隅町)に(有)黒豚振興エージェンシーを設立したのが2003年9月。その後、種豚の育種・改良が行える防疫体制がとれる清浄な農場用地を九州各県に求め、2005年4月、大分県に「清川BBファーム」を開いた。「清川BBファーム」を新たな拠点として活動を始めた黒豚振興エージェンシーは2005年5月、それまで日本には輸入されたことのない系統を中心に、純粋英国黒豚(ブリティッシュ・バークシャー=BB)の2回目の種豚選抜を行うためにイギリスを再び訪問。日本で初めて英国のバークシャー生産者団体である「イギリス・バークシャークラブ」の正会員として認められ、英国の会員から日本においてイギリスのバークシャーをベースに育種・改良を続けるよう激励を受けた。
2008年4月、山下氏はBBによるセカンドステップへと進むべく、大分の農場の閉鎖を決意。鹿児島県南九州市の農場と提携し「南九州BBファーム(南日本農場)」として、種豚・精液の供給を開始するとともに、その2カ月後の6月、大分の農場を閉鎖し、「東日本BBファーム(香取農場)」(千葉県香取市)に移転した。さらに、東日本BBファームがPRRS、オーエスキー病のいずれもフリーだったとはいえ、周辺に各種疾病の汚染地帯が多いことから、清浄を維持できるうちに種豚群をより清浄な地域に移すべきと判断し、2サイト計画を進めることにした。そして2008年10月、長野県坂城町に元SPF豚用の繁殖農場を借り受け「信州BBファーム」とし、種豚群の一部を千葉から移した。周囲5qには養豚場がなく、標高700mの緑に囲まれた、種豚生産には最適の場所に農場はあり、子豚生産はその「信州BBファーム」で、肥育・種豚育成は「東日本BBファーム」で行われることとなった。
現在、「信州BBファーム」(母豚50頭)と2009年11月に新設した「荒北BBファーム」(千葉県香取市荒北、母豚50頭)は繁殖農場として子豚を生産、「東日本BBファーム」(飼養頭数700頭)では肥育・種豚育成を行い、さらにAIセンターとして登録された提携農場の「南九州BBファーム」(母豚40頭)では輸入豚5頭が今も活躍しており、登記用の単独精液、肉豚生産用の精液の全国発送が行われている。各地の養豚生産者が「純粋英国黒豚」のブランドを前面に押し出し有利な付加価値販売を展開している。
「今後、小規模の養豚農家が生き残るには、特徴ある確実なブランド、銘柄豚をローカルマーケットで展開していく必要があり、それには特色ある種豚が必要です。飼料や環境、管理方法など、豚の発育や肉質に影響与える要素はいくつかありますが、中でも大きな要素が種豚なのです。その意味では品種としてもインパクトが非常に強い『純粋英国黒豚』は最適で、黒豚といえば鹿児島黒豚が有名ですが、『純粋英国黒豚』はその元となった豚です。『可愛がれば可愛がるほど成績が上がる豚』です。すでに当社から供給した『純粋英国黒豚』が全国各地で地域に根ざしたブランド戦略を展開しています」と山下氏は「純粋英国黒豚」が今後の日本の養豚産業の原動力となると確信している。
さらに山下氏は、「100%『純粋英国黒豚』の系統を維持していくことが私の使命だと思っています。そのための具体的な取り組みの一つとして、広島大学と大分県農林水産研究指導センター畜産研究部で開発実用化された凍結精液技術を使い、現在残っている原種の精液を凍結保存。今後10年間、継続して精液利用ができるよう準備に入りました」と自らの使命観を堅持し、「一隅照光」(一隅を照らす灯となること)の精神で系統の維持・増殖にさらに情熱を注いでいる。
「幻霜スペシャルポーク」の名を全国にとどろかせる(株)幻霜ファーム(本社・広島市安佐北区安佐町、長田誠史社長)。現在、幻霜ファームで飼養されるランドレース、大ヨークシャー、デュロックの原種豚は雄が25頭、雌が100頭。それから作出されたLWあるいはWLのF1母豚とデュロックの雄とともに、幻霜ファームが独自開発した専用飼料を加島養豚場(三次市君田町、加島秀美代表)など県内の契約農家に供給し、月間約2000頭の「幻霜スペシャルポーク」を生産・出荷している。広島県以外では、松浦畜産(愛媛県上島町、松浦守代表)や寺田畜産(千葉県柏市、寺田治雄代表)が「幻霜スペシャルポーク」の原種豚を導入し、現在も精力的に生産・出荷を行っている。
「幻霜スペシャルポーク」は、脂肪の色が白く、ロースのみならず肩やモモにまで、筋肉内に細かく均等に脂肪交雑(サシ)がある高級和牛並みの豚肉で、「ライバルは和牛最高格付け『A-5 BMS 12』だけ」と長田社長が豪語するが、その質を決める大きな要素は種豚。九州で36年もの実績を持つ有力なブリーダーだった長田社長の比類まれな“選抜の技”によって選ばれた種豚は、骨格といい、肉付きといい、そのすばらしさはずば抜け、全国各地の名だたる養豚家がその種豚を買いに来る。
抜群の種豚から生産される肉豚に与えられる専用飼料は、パン工場から出るパン屑を粉砕し、そこにトウモロコシや大豆粕、魚粉などとともに何種類かの菌を添加したもので、麦の比率が70%というこの専用飼料を約60日齢から出荷まで与える。パン屑などのリサイクル原料を使っているため、飼料費はかなりやすく抑えられている上、出荷日齢は約150日齢と早い。この専用飼料も「幻霜スペシャルポーク」を仕上げる重要な要素となっており、松坂牛などにも引けをとらないサシなどの状態を目の当たりにすると、「もはや他の豚と比べる豚肉ではない。松阪牛などの高級和牛と比べなければならない代物」と長田社長の言葉がすこぶる納得できる。
そしてこのほど新ブランドとして「霜華桜(しもはなさくら)」の生産・販売が始まった。「霜華桜」は、地球環境問題・環境工学・水環境・有害化学物質・環境哲学の大家で京都大学名誉教授の松井三郎氏との共同研究により、乳酸菌の応用技術開発において国内外で事業を展開する(株)SKY・ライフ(本社・滋賀県甲賀市、汐見修一社長)が開発した乳酸菌を配合した飼料が給与、仕上げられる。サシだけでなく、グルタミン酸成分が多く、イノシン酸も通常の豚肉より7〜8倍も多く、臭みのない脂身などが特長となっている。また乳酸菌配合飼料により豚の排せつ物の臭気などを抑制されている。新ブランドとしてはさらに、デュロック×デュロックの「銀華桜(ぎんはなさくら)」の生産・販売も始まっており、「豚肉需要が減退傾向にある中、より特徴のある豚肉で有利販売していく必要があると思うが、『幻霜スペシャルポーク』についてはこれまでも注文が多く取引を断らざるを得ないことがままあった。しかし三つのブランドが揃ったことで、今後は販路拡大も可能になる」と長田社長はさらに意気込みを見せる。
「幻霜スペシャルポーク」は地元の精肉店はじめ、ネット販売、前述の大手流通業者などを通じて全国で販売され、一流レストランや焼肉店などではプレミアムメニューとして提供されている。他の追随を許さない、まさに名実ともに「オンリーワン」の豚(豚肉)となった「幻霜スペシャルポーク」。今後の展開にさらに大きな期待がかかる。
8月3日、4日の2日間、東京・有明の東京ビッグサイトで「アグリフードEXPO2010」が開催された。国産農畜産物の販路拡大を促進し生産者を支援することを目的に(株)日本政策金融公庫が主催するこの展示会は今年が5回目の開催で、食の安全・安心への関心が高まり、国内農業や国産農産物に対する消費者の注目が強まる中、共同出展を含め549社、501小間に及ぶ企業(団体)が全国各地のこだわりの農産物、加工食品をPR。北海道から九州・沖縄までの地域別ブロック配置に加え、農業との連携を進める商工業の関連産業の製品・技術を紹介する農商工連携ブロックも設けられ、来場者数は2日間で1万3030名と一昨年に比べ2389、昨年に比べ354名上回る賑わいを見せた。
銘柄豚の生産は、地域の特産品を利用したものなど、さまざまな形態が見られる中で、食品残さを飼料として利用し、地域ぐるみでの食品のリサイクルループ構築の一環としてブランド豚の生産に取り組む地域もある。 沖縄県南風原(はえばる)町産の銘柄豚「はえばる豚」もその一つで、町内で回収された食品残さを飼料に利用している。
同町では、「はえばる豚」の飼育を委託しているNPO法人のぞみの里へ、町民が家庭から排出される食品残さを持ち込むことでスタンプカードが発行され、一定量ごとにポイントが貯まり、6個貯めることで「はえばる豚」の肉1000円相当分を贈呈するという取り組みがスタート。環境にやさしい取り組みとして、業界だけでなく消費者からも注目が集まっている。
那覇市の東隣に位置する南風原町は、人口3万4000人ほどの町で、農水用地が多数整備され、就農する人も多い土地。最近では、町内津嘉山の特産品である「つかざん完熟かぼちゃ」の登場で話題を呼んだ。同町では、平成20年6月より、家庭から発生する食品残さの量を抑制する目的で、生ゴミを堆肥化する家庭用処理機の導入を奨励しており、購入後には町から補助金を出す取り組みが行われている。堆肥は畑や家庭内のプランターで利用されていたが、マンションやアパートといった住宅事情が多い昨今、堆肥の大量利用は難しく、町は食品残さについてさらなる有効利用を検討していた。一方で、町は身体障害者らが働ける環境としてNPO法人のぞみの里の立ち上げに参加していたことから、この施設に食品廃棄物の資源化に取り組む「はえばる版リサイクルループ」事業の一環として食品残さを利用した養豚業を委託し、現在の体制が完成した。
「はえばる豚」は2年前から飼育がスタートし、現在22頭が肥育されており、30〜35キロぐらいの子豚を近隣の養豚農家から導入している。飼育については、のぞみの里の4名の障害者を含む8名が取り組んでおり、食品残さを利用した生産に取り組む養豚農家の指導のもと、生産をスタート。飼料は当初、食品残さを乾燥させたものを与えていたが、豚の食い付きが悪く、現在はリキッドに切り換えた。
集められた食品残さはまず破砕され、脱水した後にEM(有用微生物群)を投入、EMで活性処理・発酵させたものを与えている。のぞみの里では、EMを開発した比嘉照夫博士(名桜大学教授)と関わりがあったことから、EM研究機構の全面的な協力が得られている。
残さ処理の要となる乾燥機は1回に7〜800キログラムを処理している。この機械のバーナーは、町内全体から回収した廃食用油を利用したもので、「食品油は軽油の代替燃料となるので、こちらもリサイクルを徹底している」と、町の徹底した取り組み姿勢がうかがえる。
暑熱対策として、とにかく風通しを良くすることを念頭に建設された豚舎はオガコ式を採用。当初は発酵熱の影響も懸念されたが、現在のところ発育に問題はないという。利用する木屑はすべて町内で回収されたものを利用している。豚ぷんはのぞみの里の農地で堆肥として利用されている。育てた野菜は町内で消費されることで、リサイクルループが完成している。ちなみに、豚舎は町の中心地の集落から200メートルくらいの場所にあるが、においなどの苦情は来ていないという。
できあがった豚肉は町内の居酒屋でのメニューに出してもらったところ非常に好評で、肉の旨みが濃く、脂身が甘くておいしいとの声が多く上がっている。現在育てられている豚は、9月ごろに最初の出荷が行われる予定で、できあがった肉は町内の保育所や給食センター、居酒屋などで提供される。
町では「今回の取り組みは町内全体の環境改善につながっている。のぞみの里では今後も養豚を中心にしていきたいと考えており、目標の飼養頭数は60頭。今後はより日齢の若い豚を導入して、残さの給与期間を長くしていきたい。また、今後はのぞみの里に保冷庫を導入する予定で、加工品を生産し、町の名産品として直売も行っていきたい」としている。
「宮城野豚(ミヤギノポーク)」の歴史は古く、誕生は平成5年にさかのぼる。宮城県畜産試験場(宮城県大崎市)で開発されたランドレース種の系統造成豚「ミヤギノ」を雑種第一代(LW)雌豚の母とし、国が造成したデュロック種系統豚「サクラ201」を止め雄に用い、専用飼料を給与した三元交雑豚として生産がスタート。現在(平成21年度)は39戸の養豚農家で生産されており、あっさりとしてくどさのない風味が特徴で、脂身が苦手な消費者でも食べやすい豚肉として販売当初から話題を呼んだ。
ミヤギノポークの生産・販売がスタートした後も、畜産試験場ではさらなる生産性を持った系統豚の開発が進められ、平成6年度にはデュロック種の系統豚の造成を開始。この豚は8年・7世代を経て、平成13年度に系統豚「しもふりレッド」として完成した。「しもふりレッド」は、筋肉内脂肪を遺伝的に高めることを目標に造成されたもので、できあがる肉に細かく脂肪交雑を持たせた霜降り豚の生産に力を発揮する種豚として、大きな話題を呼んだ。また、従来のデュロック種に比べ産肉能力の向上、肉の柔らかさといった点に特徴を持たせることにも成功している。造成後は、新たな止め雄として供給が開始され生産に利用されることになり、ミヤギノポークはより旨みを増した肉として再び注目を集めることになった。
宮城県畜産課では「「しもふりレッド」の場合はあくまで遺伝能力として霜降りの肉を生みだすことができる止め雄として開発を進めた。従来のミヤギノポーク生産については、県系統豚の寄与率がランドレース種(ミヤギノ)の25%のみであったが、「しもふりレッド」が加わることで75%となり、より宮城県独自の豚肉としての地位を確立することができた」としている。一方、系統豚「ミヤギノ」は完成から十数年が経過し、近交係数の上昇や繁殖能力の低下等が散見され始めた。そこで県は生産性のさらなる改善に加え、安易に薬剤に頼らない安全・安心の豚肉作りを目指し、平成15年度から新たなランドレース種の造成を開始し、6年の月日を経て完成した「ミヤギノL2」は、「ミヤギノ」に比べ低下していた繁殖能力の向上のほか、産肉能力(増体量等)、繁殖能力(一産当たりの産子数)といった点が改良された。「ミヤギノL2」の肉質は基本的にミヤギノから継承しているものの、農家からの要望を反映し背脂肪を若干厚くしたほか、一腹総産子数は「ミヤギノ」より1.5頭増加するなど、生産性のさらなる向上に力を発揮している。
また、もうひとつの大きな特徴として、慢性呼吸器病の主たる原因であるマイコプラズマ性肺炎病変を少ない方向に選抜した日本で初めての系統豚であることが挙げられる。「ミヤギノL2」の造成を進める中で、調査の際にと畜した豚の肺炎の病変を評価し、小さくなる方向に選抜していった結果、ほとんど病変が認められない程度にまで改良することに成功したのである。「ミヤギノL2」は平成21年7月から県内の養豚農家への配布が開始され、新たな「ミヤギノポーク」の生産がスタートしている。肥育豚は平成23年夏から出荷の予定だ。
こうした歴史を持つ「ミヤギノポーク」であるが、平成21年3月からは宮城野豚の肥育後期2カ月間に飼料用米を7%配合し生産された「宮城野豚みのり」の販売がスタートした。この取り組みは「ミヤギノポーク」生産農家のうち9戸が取り組んでいるもので、飼料米を用いることで、脂身がより美しい白色になり、オレイン酸がより多く含まれることで肉の甘み・旨みが増している。今後は飼料米の生産も増やしていくことで、県産ブランドとしての特徴を強化していく方針だ。宮城県では今後も種豚改良の取り組みが続けられ、品質の向上に取り組んでいくとともに、あわせて「ミヤギノポーク」も県独自の銘柄豚として進化を続けていく。(※写真・資料提供:宮城県農林水産部畜産課、宮城野豚銘柄推進協議会)
愛媛県農林水産研究所畜産研究センター(愛媛県西予市野村町)では、愛媛県独自の銘柄豚となる「愛媛甘とろ豚」を作出した。この豚は雄に中ヨーク(Y種)、雌にランドレース×大ヨーク(LW種)を用いて掛け合わせたLWY種で、中ヨークの優れた肉質とLWの高い繁殖性・産肉能力を併せ持った豚として注目を集めている。
「愛媛甘とろ豚」は、本年4月末より松山市内のデパート、スーパー、精肉店といった一部店舗で販売を開始した。肉色が濃く、適度にサシが入った赤身と、上品な甘さを持った脂身が特徴。キャッチフレーズである「36℃の口溶け 純白の脂身がおいしい甘とろ豚」が示すとおり、脂肪の融点が35.7℃と低く、柔らかくジューシーな肉質を持っている。従来の豚肉にくらべ、脂肪に含まれるオレイン酸が豊富であることがわかっており、 関心が寄せられている。
愛媛県が「愛媛甘とろ豚」の開発に着手したのは2003年のこと。愛媛県は中国・四国地方の中でも有数の養豚生産県で、年間肉豚出荷頭数は38万頭にのぼる。このような県の特性を生かし、日本全国にアピールできるもの、地元消費者に愛される豚肉を目指し、銘柄豚の開発がスタートした。
開発に当たり、消費者に求められる豚肉像を調査した結果(1)やわらかさ、(2)ジューシーさ、(3)脂身のおいしさが求められていることがわかった。このような要件を満たすとともに、全国にアピールできる特徴を持たせたいと考え雄豚に採用したのがY種である。愛媛県畜産研究センターではY種について「従来日本の気候にあった飼いやすい品種であるとともに、やはり肉のおいしさが大きな特徴だと思う。また、その希少性も銘柄豚の魅力のひとつに結びつくのではないかと考えた」としている。
また飼料についても、肉質向上と県独自の色を打ち出せないかと研究を重ねた結果、愛媛県が日本一の生産量を誇る裸麦を加えた指定配合飼料を完成させた。この飼料を体重60キロから出荷まで給与することで、締まった肉質と美しい脂身に仕上げている。
「愛媛甘とろ豚」は現在、県内2戸の養豚農家で飼育されている(ともに一貫経営)。雄には畜産研究センターから供給された中ヨークを導入しているほか、AI実施に合わせ精液の供給も行っている。母豚についても同センターの試験結果により選定されたLW種が使われている。
豚はY種の特性が色濃く反映されており、しゃくれ顔といった特徴がみてとれる。出荷日齢は180〜220日齢とじっくり時間をかけて育て、出荷体重は110キロ以上としている。一般的な三元交配種(LWD種)と比べ背脂が厚くなる傾向があるため、現在の格付では上物率が低下するといった問題もあることから、取引には独自の枝肉格付基準を設けているほか、枝肉の状態で肉色の濃さ(規定ではポークカラースタンダード3以上)や脂肪の色味、枝肉重量をみて、規格に合ったものだけを「愛媛甘とろ豚」として出荷するなど、流通についても厳格な基準が設けられて、品質の保持・均一化を図っている。
愛媛県では「肉質について特に力を入れたのが脂身のおいしさであるが、豚肉の脂を敬遠する消費者も少なくない。せっかくおいしいものができたのだから、脂身をいかに消費者に受け入れてもらうかといった点で、赤身にサシが入るようにして、脂のおいしさを感じてもらえるようにした。また、試食イベントを通じて、「愛媛甘とろ豚」を地元消費者に身近なものとして感じていただけたのではないか。今後も県内の生産農家と協力して生産量の増加を図り、全国に向けて供給ができる体制を整えていく」としている。(※写真・資料提供:愛媛県畜産研究センター)
長野県の南部に位置する下伊那郡喬木村は人口7000人ほどの街で、高原や山に囲まれた土地では、リンゴやイチゴといった農産物や各種畜産が盛んな土地である。
村を見下ろす高原の頂上に広がる喬木村養豚団地で母豚200頭規模の一貫経営を続ける知久(ちく)養豚では、今年2月に中部飼料(株)(本社愛知県知多市、平野宏社長)の協力の元、ブランド豚「信州くりん豚」(しんしゅうくりんとん)を発表、地元スーパーを中心に販売を開始した。
喬木村の村花である「くりん草」にちなんで名づけられた「信州くりん豚」は、WLDの三元交配豚に中部飼料の「いもぶた仕上げ」を肥育後期2カ月間給与することで生産される豚肉。「いもぶた仕上げ」は、埼玉県・千葉県・東京都・神奈川県といった首都圏を中心に流通しているブランド豚肉「いもぶた」の生産に用いられる100%植物性飼料で、デンプン質の多いサツマイモを中心に、イモ類を50%配合しているのが大きな特徴。また、ビタミンEを多く含みドリップロスを抑え、鮮度保持に優れた肉質を作り出すことができる。
できあがる肉は色の濃い赤身と引き締まった真白い脂身を持ち、非常にあっさりとして食べやすいにもかかわらず、肉の味がしっかりしていることが特徴。脂身が苦手な人でも食べられると評判で、特に女性や子供に人気だ。調理した時の獣臭さはほとんどなく、ほのかな甘みをともなった香りを感じることができるほか、しっかりと火を通しても肉が固くならず食べやすい。
生産者である知久隆文さんはブランドを立ち上げるに当たって「中途半端なものは作りたくないという思いの元、日本全国の銘柄豚を食べ比べた中で、あくまで素材が本当においしいもので、なおかつ飽きのこない味を目指した。長野県でもいくつかのブランドポークが生産されているが、それらと比べても独自の特徴を持った肉ができた」と胸を張る。ちなみにおすすめ料理はバラやロースのしゃぶしゃぶで、ぜひ調味料を使わずに肉そのもののおいしさを体感してほしいと話す。
以前から肉の味や締まりの良さについて、卸売業者や精肉店から定評のあった知久養豚の肉であるが、周囲の養豚環境が厳しさを増す中で、知久さんは「自分が目指す品質の高い豚肉を、村興しも含めてブランドに結び付けたい」という思いを持ち続けていた。
「ブランドといっても、種豚の品種を限定したり脂肪交雑を強調したりといろいろな方法があると思うが、自分はあくまでスタンダードな三元交配豚で、見た目はシンプルでもおいしい豚肉を作りたかった」と知久さんは当時を振り返る。そんな折、先代が創業当時から付き合いの深い中部飼料の開発営業部から同社が生産に取り組む「いもぶた」の紹介を受けたことが、ブランド誕生のきっかけとなった。
販売が始まった「信州くりん豚」は、飯田市および駒ヶ根市のスーパー・精肉店で購入できるほか、和食レストランや焼肉店といった外食店でも使用されている。また、インターネットを利用し、「信州くりん豚」を食べられるお店や、知久養豚の堆肥を使った野菜の生産などについても積極的に紹介していきたいと計画中だ。
隆文さんは「信州くりん豚」について「中部飼料と、お互いに謙虚な気持ちを持っているからこそ成立する信頼関係でできあがった豚肉だと思っている。自分は良い肉を生産するために尽力するし、そのための飼料は良いものを供給してもらうし、販売に関しては手伝ってもらえる。こんな良いパートナーシップをずっと望んでいたので、こうして実現できたことは非常にありがたい」と話す。また中部飼料(株)の北野氏は「当社としても、研究者が豚舎に入って問題点を確認したり随時アドバイスができる体制をとっている。こういった形の取り組みの足跡を残していけば、自分たちが失敗しても新しい取組がまた生まれてきてくれるのではないか」と期待を寄せる。
今後も知久養豚は信頼関係に裏打ちされた品質の高い肉の生産を続けていく。
「神戸ビーフ」「但馬牛」といった全国的に有名なブランド和牛の生産地として知られる兵庫県では、県産の豚肉として県内の消費者にアピールできる県産の豚肉の消費拡大と、牛肉に匹敵するおいしさを持つ豚肉の生産について取り組みを続け、「きれいで、柔らかく、甘みがある肉質」を持つ銘柄豚「ひょうご雪姫ポーク」を誕生させた。
「ひょうご雪姫ポーク」は昨年10月末に誕生したばかりの新ブランド。ロース肉内の脂肪量が5%以上と非常に多くのサシが含まれており、見た目の美しさとともに、脂肪の融点が33.2℃と低く滑らかな舌触りを持っている。また、一般豚肉にくらべオレイン酸、リノール酸といった脂肪酸が多く含まれ旨みを増しているのが特徴だ。
この豚肉の生産におけるキーポイントが、ドライ型エコフィードの給餌である。兵庫県畜産技術センターでは、平成13年よりエコフィードの開発・利用についての検討を進めており、平成17年に、パンくず・麺くずといったデンプン質のエコフィードを40%以上、肥育期50日以上給与することで種豚の品種を限定することなく、霜降り豚肉を生産する技術を開発した。この技術を元に、平成18年には県内の生産農家の協力のもと実証試験を開始。できあがった豚肉には見事な霜降りが含まれ、この農家が経営する精肉店で販売したところ非常に好評を得ることができた。この好結果を受け、ブランド化に向けた本格的な活動がスタート。平成19年に、養豚農家3戸、飼料製造業者1社の参加で兵庫県霜降り豚肉生産者協議会が設立された。兵庫県立農林水産技術総合センター家畜部主任研究員の設楽修氏は「銘柄豚は市場価格や飼料価格の変動を受けにくく、経営の安定化につながるといったメリットを考え、全国でブランド豚肉が増加する中、養豚振興としてブランド化の必要性を感じていた」と当時を振り返る。
誕生した豚肉は、兵庫県畜産協会のホームページや地元新聞で名称を公募、県内外から130点の応募がある中、霜降りを白い雪にたとえ、童話「白雪姫」のように愛されることを願い「ひょうご雪姫ポーク」と名付けられた。誕生後も、県内の消費拡大イベントに積極的に参加し試食会を行い、「脂身がおいしい」と好評な意見を得るとともに販売店舗についての問い合わせを多数受けるなど注目を集めたほか、テレビや雑誌などでも大きく取り上げられた。兵庫県畜産協会事務局次長兼経営支援部長の沼田康男氏は消費者からの反応について、「一般消費者に向けて「ひょうご雪姫ポーク」を使った料理教室を開いたのだが、主婦層からの評価が非常に高く、大きな手ごたえを感じることができた」と説明する。
「ひょうご雪姫ポーク」は現在、県内3カ所の農場で生産が開始されており、合計で年間2600頭の出荷を見込んでいる。「兵庫県は肉牛の生産地として知名度を得ていることや、農家戸数が減少傾向にある中で、養豚に対する取り組みが弱く、県の養豚組織もない。そういった面でも、今後もっと多くの生産者に参加してもらい、生産量・消費量ともに拡大していければと考えている」と設楽氏。また現在、協議会の会長をつとめる木村畜産の木村友彦さんは「豚というと、安価なものというイメージが強く、牛肉のようにサシで値段が変わるということもない。兵庫県の豚肉生産量は全国的に見ても非常に少なく、地元のスーパーで販売されている豚肉も九州や東北といった生産地のものが並ぶことが多い。「ひょうご雪姫ポーク」を高品質な豚肉として地元の人に知ってもらい、消費が伸びてくれれば嬉しいし、全国の有名ブランドの仲間入りをしていきたい。これからも、産者の顔が見える生産・販売という、小規模だからこそすべての面に気を配って生産できる、おいしい豚肉の追求を続けていく」と話す。
今後も協議会は「ひょうご雪姫ポーク」の生産量の拡大を目指し県内の農家に協力を求めていく方針だ。
伊勢湾を臨み、年間を通して温暖な気候が続く三重県では、海産物だけでなく農畜産物の生産も盛んである。北勢地域・津市の郊外に位置する(有)大西畜産では、平成16年3月より銘柄豚「頑固おやじのぶた」の販売をスタート、地元消費者を中心に人気を博している。
「頑固おやじのぶた」は美しいピンク色でしっかりと締まった赤身と、ほのかな甘みをもった白く美しい脂身が特徴で、品種はランドレース×大ヨーク×デュロックの3元交配豚である。出荷時に体型の良さを選定した雌の肉に限定し、出荷頭数の1割がこの豚肉になる。
生産に当たって目指した肉質は「さっぱり系」。旨みや風味の濃い脂身やサシの多い赤身ももちろんおいしいのだが、たくさんの量を食べることができない。「頑固おやじのぶた」はあっさりとして食べやすく、飽きのこない味を念頭に置いて生産されている。
「頑固おやじのぶた」はロース、バラ、モモといった定番の部位について、トンカツ用やしゃぶしゃぶ用といった用途に合わせてカットされた商品を多数用意。またベーコンやハム、ペッパー入りのウインナーといった加工品の生産も行っている。年間を通して特にロースや肩ロースが人気を呼んでいるほか、冬にはしゃぶしゃぶ用のスライス肉の需要が非常に多い。またお中元やお歳暮で加工品のセット販売も行っており好評を博している。
同社がブランド販売を始めたきっかけは、豚価の大暴落による市場の低迷だった。手を抜くことなく一生懸命生産した肉が安い値段で取引され、小売店で特価販売されている光景を目の当たりにし、非常に歯がゆい思いをしたという。大西良和社長は「我々生産農家が苦労して出荷した豚が、相場によってはほとんど儲けにならない。これは養豚業だけでなくほかの畜種や、野菜などにも言えること。農家というものは生産から販売まで自身の手で責任を持ってやっていくことが必要だと痛感した」と当時を振り返る。
「頑固おやじのぶた」は現在、インターネットや通販カタログを利用した無店舗販売や農場内の直売所で購入できるが、三重県内の一部地域では大西畜産の従業員自らが宅配サービスと移動販売を行っており、近隣の街を中心に、曜日ごとに宅配地域を決めて消費者に直接商品を届けている。丹精込めて生産した豚肉を直接消費者に宅配することで、できたての新鮮な品質を届けるとともに細かい要望を直接聞くことができるシステムだ。また近隣のスーパーでは加工品の取り扱いもスタートし、徐々に店舗数を増やしているほか、ラーメン店や中華料理店、居酒屋といった各種飲食店への卸業務も展開している。
肉の風味にいちばん関わってくる要素が飼料であるが、同社ではさまざまな飼料の試験を経て、ライ麦が30%含まれたものを仕上げ期に与えている。こうすることで脂のキメが細かく舌触りがよく、ほのかな甘みが含まれた肉質に仕上がるという。
厳しい情勢が続く中、今後の目標について大西社長は「生産に関しては、肥育改善の努力が必要だと感じている。併せて繁殖については、いかに子豚の死亡を少なくするかがポイントだと考えている。忙しいからと言っておざなりになりがちな、豚舎の清掃を見直すことから始めている。また分娩に関しても看護分娩をして死亡をなくしていくよう努めている。これらを含め、養豚業では1母豚当たりの枝肉出荷量2トンが目標。これは出荷日齢や産子数など、あらゆることを達成しないとできない数字で、養豚業の集大成だと考えている。また、販売業務については現在会社の売り上げの2割だが、今後は5割を占めるように伸ばしていきたい。我々はあくまで養豚農家であり、本業は養豚業。生産を助けるための直販業務であると思っている」と語る。今後の生き残りをかけ、生産と販売を両立させながら、消費者の視点に立った生産を念頭に置き努力を続けている。
岐阜県畜産研究所養豚研究部では、県の系統豚である大ヨークシャー種「ナガラヨーク」や、愛知県農業総合試験場との共同研究により完成したデュロック種「アイリスナガラ」の造成・維持がされ、県内の銘柄豚「美濃けんとん・飛騨けんとん」をはじめとする養豚生産に大きく貢献している。同研究部では、(独)農業生物資源研究所、(社)農林水産先端技術産業振興センターとの共同研究により、豚肉の「霜降り」に関連する2カ所の染色体領域を特定、これらの領域を固定したデュロック種の種豚「ボーノブラウン」を2009年に開発、同年10月に公表した。
研究がスタートした1998年、岐阜県内の市場で競り落とされた豚肉について、精肉卸業者から「霜降りが多すぎる」として5頭の豚肉がクレーム返品された。研究部でそのうち2頭分のロース肉を提供してもらい、脂肪含量を測定したところ、筋肉内脂肪(IMF)含量が特異的に高い数字が計測された。
これらの豚の親子判定を行い血縁関係を確認したところ、祖父豚(D1)が判明した。この雄について、霜降り割合を増大させる遺伝領域が固定されているのではないかという仮説を立て、(独)農業生物資源研究所、(社)農林水産先端技術振興センターとの共同研究により、豚の筋肉内脂肪含量に関連する遺伝領域の特定を目指した。仮説を実証するため、D1と一般のデュロック種雌を交配させ誕生した種雄豚(D2)を種豚として、大ヨーク種雌と交配させたところ、仮説通り霜降り割合が高いものと低いものに分離した。これらの豚の遺伝領域を選定した結果、第7染色体上と第14染色体上に割合増加の効果が確認されたことから、この二つの染色体はそれぞれ独立してIMF含量を増加させる効果があることが判明した。
こうしてIMF含量増加の染色体領域を突き止めた研究部は、遺伝子解析と併せ交配選抜を実施。D1から第7染色体と第14染色体上のIMF含量を増加させる領域を受け継いだD2を一般のデュロック種雌に掛け合わせ、D2の能力を受け継いだ雄豚と雌豚を生産。それら同士を、交配させ、産子が生産された。その中から第7染色体と第14染色体上のIMF含量を増加させる領域が固定された雄6頭・雌8頭の計14頭を種豚として選抜した。この種豚が、イタリア語で「おいしい」を意味するボーノと、デュロック種の毛色から「ボーノブラウン」と名付けられたのである。
岐阜県畜産研究所養豚研究部の吉岡豪氏は「遺伝能力を固定するのに、第7染色体と第14染色体両方に増加能力が遺伝された豚ができる可能性が16分の1と、一腹に1頭以下という確率だった。また、染色体を受け継いでいてもその豚が種豚として使えるものかどうかは別問題で、造成が難しかった」と振り返る。
造成されたボーノブラウンについて、実際に生産現場に導入することで肉質の改善効果について確認するため、岐阜県内の養豚農家に止め雄としてボーノブラウンの精液を供給し他の雄豚を用いた肉豚とともに生産してもらい、IMF含量を比較した。すると、一般流通豚肉のIMF含量3.2%にくらべボーノブラウン産子は1.2%増量の4.4%が確認できた。食味試験も行われており、「サシが増えてくどくなることもなく、脂が軽くて甘味が多く食べやすい」といった回答を得られているという。
従来に比べ高いIMF含量を示した豚肉であるが、食肉流通業者からは「霜降り割合の平均値が5%以上を超えてこないと、通常の国産豚肉との差別化は難しい。また、歩留まりとして70%以上は欲しい」という要望が出されたという。
ボーノブラウンは系統豚の規定を大幅に外れるものであるため、特殊な能力を持った繁殖集団として扱われ、現在、岐阜県内の養豚農家に向けて人工授精用精液の譲渡が行われている。吉岡氏は今後の課題について、「ボーノブラウンは小さい集団で固定しているため、どうしても近親交配になりやすく、今後改善していくべき問題である。また、県内の農家の皆様から非常に多くの需要をいただいているため、確実な供給体制を整えていきたい。岐阜県内の農家さんには畜産研究所にこういった技術があることを知ってもらい、生産に利用してもらえればありがたい」と説明する。
黒豚といえば、その肉質の高さや希少性から高値で取引され、黒豚自体がひとつのブランドとして扱われている向きがある。また、黒豚の産地と言えば九州・沖縄を思い浮かべる消費者も多い。静岡県牧之原市の(株)栗山商店では、早くから黒豚のおいしさに注目。高品質な黒豚の安定供給を目指し養豚場を設立、現在はグループ会社となった(有)栗山畜産で生産されるバークシャー純粋種の銘柄豚「遠州黒豚」を販売し、地元消費者を中心に大きな評価を得ている。
栗山商店4代目となる代表取締役の栗山隆氏は「遠州黒豚」に対する消費者からの反応について「やはり味に対する評価が非常に高い。赤身の軟らかさに加え、脂の旨みについてもおいしかったと言ってもらうことが多く、女性のファンが多いように見受けられる。部位としてはロースやバラ肉、肩ロースがとても人気がある」と話す。卸売業の面からも「遠州黒豚」は大変な人気で、県内外を問わず、導入を希望するホテルやレストランからの声が絶えないという。栗山隆氏は「一度食べてもらえば味の違いがわかる。生産量の兼ね合いもあるが、今後は少しずつでも「遠州黒豚」の販売を広げていきたい」と商品に対する自信をのぞかせる。
栗山畜産のこだわりは、安心・安全でおいしい黒豚の肉を消費者に届けること。おいしい肉を作るにはやはり種豚選びが重要で、黒豚の特徴である六白と呼ばれる特徴的な模様や、何よりもしゃくれた鼻とずんぐりとした体格を最重要視するのがポイントだと代表取締役社長の栗山貴之氏は話す。同社の種豚は、鹿児島県の渡辺原養豚場から導入したバークシャーと、静岡県養豚試験場の紹介で導入した静岡県豊岡村産の遠州黒豚と呼ばれるバークシャーを掛け合わせたもの。以降は種豚・母豚ともに自家更新を続けている。
「肉の軟らかさだけでなく脂のおいしさにもこだわりたかった。指定配合にすることで、深い旨みととろけるような脂を持った理想的な肉ができるようになったと感じている。九州ではサツマイモを飼料に利用しているかと思うが、こちらで同じことをしてもコストの面で難しい。そこで、サツマイモに匹敵する効果を大麦とマイロで実現しようと、時間をかけて作り上げた」(栗山貴之氏)という。
栗山畜産の品質への取り組みのひとつに、静岡県が主催する「しずおか農水産物認証制度」が挙げられる。この制度は、農水産物に対する消費者からの安心と信頼確保を目的に、平成18年度から静岡県がスタートしたもので、農水産物の生産者の安全・安心への取り組みを県が認証する制度である。栗山畜産ではこの認証を2008年3月に取得。薬品などの使用記録・管理のほか、トレーサビリティ可能な生産記録を管理している。このように高いレベルでの生産環境を実現するため自分たちだけでなく第三者の視点からも厳しく管理・維持される中、健康に育った豚は210日齢で小笠食肉センターに出荷、栗山商店の関係店舗に並ぶほか、一部中部地方でも流通している。出荷時にはと体に対して出荷証明をつけており、トレーサビリティの徹底、消費者への安心安全を配慮している。
「やはり安心・安全なものであると同時に、自分が納得できるものを作りたいという気持ちで生産を続けている。そのため品種・飼料ともに妥協することなく追求を続けている。黒豚といえば九州を思い浮かべる人が多いと思うが、特に近隣の消費者には、地元でもこんなにおいしい肉が作られているんだということをもっと知ってほしい」と栗山貴之氏。今後も安心・安全な地域ブランドとして、黒豚のおいしさと魅力を続けていきたいと考えている。
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