好評連載中 トップへのHACCP講座(2002年4月号)
「食品業界の5S」
(株)フーズデザイン 加藤光夫

 整理=不正をする企業を無くす
 整頓=ワルを追い出し、正直な企業で再編する
 清掃=インチキするヤツを掃き出す
 消毒=悪いヤツを首にする
 躾、習慣=正直な仕事をするようにする

 次々と出て来る偽装事件で、日本の消費者は強力なパワーを持っていることに気が付いた。
 昔から食品企業の不正や事故事件は絶えなかったが、その時は批判されても、そのうちに復活してしまうことが多かった、ズルイ奴が生き残っていたのだ。インチキして儲けないとソンだとばかりに、偽装は行われていることを、食品業界の人々は知っている、まじめにやっている人は憤りを感じていたはずだ。しかし、今回最初に出たBSE(通称狂牛病)での偽装では、あっという間に企業は消滅した、消費者がその製品を買わなかったからだ。消費者は今まで、怒り、何とかしろと訴えてもなかなか浄化しなかった、しかし、今回で消費者は分かった、何も言わなくても、みんなが買わなければその企業を簡単に消滅させることが出来ることを。
 次に出た四国の企業も、直ぐに消滅した。その後次々に出て来ているところも買わなければ簡単に消滅させることになる。インチキする奴が儲かって生き残り、まじめにやっている人が損をする社会は直さなければダメだ、正直者がバカを見る世の中だったら、ロクな国にならない、「世直し」だ。
 偽装はHACCP以前の問題だ、モラルの問題だ、しかしHACCPのトレーサビリティー、検証、監査、記録、といったシステムは、追いつめられて偽装を企てようとする悪い奴を出さないようにするシステムにもなる。
 トレーサビリティー(追跡性)を構築することで、原材料の安全性だけでなく、不正の無いものなのかも遡って監視することが出来る、問題があった場合にも直ぐに追跡出来るから、ごまかしを防止できる。販売した先も追跡出来ることで、自社の製品を悪用されないようにできる。農場が出荷する先を監視できるようにすれば、今回の一連の偽装を防止するシステムになる。政府、生産者から工場そして販売店に至るまでのHACCPチェーンの中で、第三者機関、消費者、更にはNGO等も含めて皆で監視をすればいい。
 不正を発見するモニタリングと検証システムを入れ、その手法を定期的に検証することで、不正監視を次第に強化していくことも出来る。工場で製造をするとき、使用原材料を製造担当者だけでなく、製造現場と離れた内部監査者の二名で確認することで不正を防ぐことも出来るだろう。いつも同じ内部監査者だと癒着するかもしれないから、不定期に、いきなり監査者を交代するようにすれば、より監視力が高まる。そんなことをし出したら、作業が大変になるというかもしれないが、不正をしてバレれば会社はつぶれる時代になったのだ、つぶしてもいいのか?と問いて見たら良い。

 偽装事件の報道を見ていて子供が聞いた「悪いことをやっているのを、社長さんは知らなかったの?」と。そうだ、トップが知らないところで、一部の社員が不正を行ない、会社は消滅することになるのである。そんなことをトップが許してよいのか?
 そうは言っても、欠品させたら許してくれなくて、ペナルティーになるから、苦し紛れにやることになる、無理をしてでも何とかしないと取り引き出来なくなる、という製造者もいるだろう、これも偽装事件のきっかけのひとつではある、ならば、欠品しても許してくれる条件を交渉するべきだ。特に生鮮で欠品することなど当たり前で、消費者は「品切れです」といわれても「それなら仕方ない」とあきらめるだけである、飛行機でも歌舞伎でも席に限りはあるのだ、誰も恨みなんてしない。欠品したら販売ケースが空くので売り上げの妨害になるというなら、空いたところに別の商品を広げれば良い。通販宅配なら「この商品は品切れになることがあります」と表示しておけばよい、早く注文しないと無くなるとなれば、かえって売り上げが増えるかもしれない。
 代用品はいくらでもにある。欠品させてはならないと言われるから取り引きしない自然志向生産者はいくらでもいる、欠品があっても仕方ないということなら、安全な生鮮がもっと多くの消費者に流通するようになるし、真面目な生産者も増え、国民の利益になるだろう。納入者と販売者そして消費者一体で不正を無くすシステムを作ればよい。

 G7(先進7カ国)の中で、食品の安全衛生信用にいい加減な国は日本だけだった。食品をごまかすような悪事をやった食品企業は、消費者と業界から直ぐに打ち払われてしまうのが日本以外の国の常識だ。食品をごまかしたり危険な製品を出すことに対して厳しいのは、人は食べ物を食べないと生きていけないからである。飛行機は落ちるから怖いというなら乗らなければいい、車は事故が多いからいやだというなら歩いてけばいい、しかし食べなければ人は死ぬ、だから食品は安全なものを流通させなければならない。米国がHACCP規制に入ったとき「連邦政府は安全な食品を国民に提供できるシステムを作る義務がある、だからHACCP規制をするのだ」というメッセージが冒頭に入っているが、これで食品の重要性が分かるであろう。一万人の食品工場でも、たった一人の工場でも、安全な食品を出す義務がある、ましてや分かっていながらごまかすなんてもっての外である。日本の食品業界は、新しい時代に入った、責任が重くなったのだ、先進国並になってきたのだ、フードサイエンスとHACCPが必要になり、業界のレベルがぐんと上がってきたのだ、うれしいことではないか、良い仕事をしよう。

フーズデザインのホームページ //www.foodesign.net

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