GFSI(Global Food Safety Initiative、世界食品安全イニシアチブ)主催によるFOOD SAFETY DAY JAPAN(フードセーフティ・デイ・ジャパン)が10月3〜4日の2日間、東京・虎ノ門のホテルオークラ東京で開催された。
GFSIは、世界中の小売業やメーカー、フードサービス業、食品サプライチェーンに関わるサービス・プロバイダーなどの食品安全専門家が、業種を超えて集まり、協働で食の安全に取り組んでいる組織である。日本国内でもGFSIの活動への関心が高まっており、2012年には「GFSI日本ローカル・ワーキング・グループ」(以下、GFSI日本LWG)が発足。現在、GFSI日本LWG内には、(1)コミュニケーション・ワーキング・グループ、(2)グローバル・マーケット(GFSIスキーム到達プログラム)・ワーキング・グループ、(3)GFSIスキーム・ワーキング・グループ、(4)行政連携・ワーキング・グループの4つのワーキング・グループ(WG)が設置されている。
GFSI日本LWG内に設置されたワーキング・グループ(WG)の一つである「グローバル・マーケットWG」では、グローバル・マーケット・プログラムの「利用促進」と「有効活用」をテーマに、第一段階として「国内の中小企業向けプログラムとの比較」、第二段階として「日本国内でのプログラム運用実験」に取り組むこととしている。具体的には、(1)FCPタスクフォースチーム、(2)グローバル・マーケット・プログラム・オリジナル版運用実験チーム、(3)グローバル・マーケット・プログラム・METRO版運用実験チームという3つのチームを設置した。
グローバル・マーケット・プログラムは、GFSIで提唱された食品安全普及のためのプログラムで、中小規模の事業者(食品加工、一次生産)を対象としたものである。食品安全要求事項を確立するための任意の基準であり、その目的として、(1)中小規模事業者の能力開発を援助すること、(2)食品安全マネジメントシステムを構築すること、(3)Codex委員会のHACCPを確実に運用できること、(4)継続的な改善にレベルアップが図られること――などを掲げている。
FOOD SAFETY DAY JAPANでは、グローバル・マーケット・プログラムの試験的な運用事例について、グローバル・マーケットWGから報告が行われた。報告によると、グローバル・マーケット・プログラムの「初級編」については、全体の6割が適合率71〜90%であった。初級編に取り組んだ工場についてみると、《必須要求事項》への適合率は66.9%、《必須要求事項》への適合率は71.5%であった。また、「初級編+中級編」に取り組んだ工場について見ると、《必須要求事項》への適合率は83.3%、《必須要求事項》への適合率は69.5%であった。また、「初級編」に取り組んだ施設、「初級編+中級編」に取り組んだ施設ともに、100%適合した工場はなかった。
試験運用において、問題点として抽出された課題としては、(1)事業者にとって、グローバル・マーケット・プログラムの用語がわかりにくく、抵抗感がある、(2)事業者側はOEM受託あるいはISO認証取得を意図してきたため、グローバル・マーケット基準の構成に馴染めない、(3)事業者側は消費者苦情対応中心に取り組んできたため、食品品質面が重要課題であった、(4)評価者側にとっては、判定基準が不明確なためアセスメントが難しい――などの点が挙げられた。
また、これらの課題への対応策として、(1)〜(3)については、グローバル・マーケット・プログラムに取り組む際の抵抗感を和らげるためのワークショップを開催することや、そのワークショップで食品安全ハザードの制御について議論することなどが考えられる。(4)については、要求事項に対する到達度合いを評価できるように具体化すること(到達度合いを把握できるような評価方法を構築すること)などが考えられる。
ISO22000やGFSI承認規格(FSSC22000やSQFなど)、自治体独自のHACCP認証、総合衛生管理製造過程の承認制度など、さまざまな食品安全規格の認証・承認が実施されている。特に、国際的な食品安全規格に対する関心の高まりが顕著である。
日本におけるSQF(Safe Quality Food)規格への関心の高まりなどを背景に、FMI(Food Marketing Institute、米国食品マーケティング協会)は9月18日、東京・紀尾井町のホテルニューオータニにおいて、情報セミナー「SQFインフォメーション・デー」を開催した。
FMIは米国約1500社、海外約200社のスーパーマーケット企業を代表する食品小売企業の業界団体で、2003年にSQF規格を管理するSQFI(Safe Quality Food Institute)を買収した。それ以降、SQFの仕組みを活かし、食品業界における安全・品質基準の向上や、それを維持するための活動を展開している。
このたびのセミナーでは、FMIシニア・バイスプレジデント(SQFI担当)のロバート・ガーフィールド氏、SQFIアジア・パシフィック代表のビル・マックブライド氏、SQFIシニア・テクニカル・ディレクターのリアン・チャボフ氏が来日し、SQF規格の概要や認証の仕組みなどについて解説を行った。セミナーでは、ガーフィールド氏がSQFIとGFSIの活動などについて解説し、チャボフ氏とマックブライド氏がSQF認証の近況について説明した。講演概要を一部紹介する。
「なぜSQFに取り組むのか?」を考える際の参考になる、一つの調査事例を紹介する。以前、アーカンソー大学が、ウォルマートのサプライヤー176件(406施設)を対象に、商品の撤収やリコールの状況について調査した。サプライヤーがGFSI承認規格を導入した導入前後の4年間(導入前2年間および導入後2年間)について調査した結果、市場からの撤去やリコールは34%減少した(この調査結果はJournal of Food Protectionに掲載された)。
経営陣が「食品安全マネジメントの確立に真剣に取り組みたい」「従業員の意識を本当に変えたい」ということに強い姿勢でSQF認証の取得に取り組んだ企業では、上記のような「リコールと市場撤去率が減少する」「効率性がアップすることで、コストが減少し、利益が上がる」などの効果が得られる。しかし、経営陣が、バイヤーの認証要件への適合にのみ関心を持っている企業(「バイヤーに求められた」といった理由だけでSQF認証を取得した企業)では、確かに認証は取得できるが、(認証取得後も)企業の組織風土が変わらない場合もある。
なぜSQFIを検討するのか。それは「あなたのブランドを守るため」である。現在の市場の状況においては、「自らのブランドを守ること」は至上命題といえる。
SQFIは2000年に発足して以来、現在に至るまでGFSIの活動に積極的に関わっている。SQFは、GFSIが最初に承認した4つの食品安全スキームの一つである(BRC、 IFS、Dutch HACCP、SQFの4規格)。SQF2000(レベル2)は2004年、SQF1000(レベル2)は2005年にGFSIの承認を受けている(現在は、SQF1000/SQF2000が一本化された「SQF」として承認されている。SQF規格の概要は後述する)。
SQF認証には、レベル1〜3まで3段階のレベルが設けられている。つまり、組織は、自社のコストや資源などを考慮に入れて、継続的な改善やレベルアップを図ることができるのである。認証取得組織は、SQFIウェブサイトで閲覧可能な「SQF登録名簿」に掲載される。組織は、その旨を関係者に通知することで、顧客信頼の向上を図ることができる。
レベル1では、食品安全の基本事項――例えばGAP(適正農業規範)、GMP(適正製造規範)、GDP(適正流通規範)など――の要件が対象となる。レベル2では、レベル1の要件に加えて、HACCPに基づいた食品安全マネジメントシステムが対象となる(「食品安全リスク分析の完了」が求められる)。そして、レベル3では、レベル1・レベル2の要素に加えて、品質管理の要素が含まれる(「食品品質リスク分析の完了」が求められる)。
SQF規格(レベル3)の大きな特徴として、「HACCP手法で食品品質のリスク分析を行い、必須品質点(CQP 、Critical Quality Points)を特定して管理する」という点が挙げられる(CQPの一例としては、サイズ、食感、色、味、香り、見た目の美しさなどが挙げられる。食品安全をコントロールする「CCP」と同様、許容限界(CL)などを設定する)。レベル3認証を取得すると「SQF認証マーク」を使用することができる。
長崎ちゃんぽん専門店「リンガーハット」、とんかつ専門店「浜勝」などをチェーン展開しているリンガーハットグループは、海外拠点の増設、海外売上の拡大、外販部門(調理済み商品の店舗販売や通信販売など)の拡大など、今後の事業展開を考慮に入れて、2012〜13年にかけてセントラルキッチンである佐賀県の佐賀工場および鳥栖工場、静岡県の富士小山工場でISO22000認証を取得した(認証範囲は「長崎ちゃんぽん、皿うどん、とんかつ、ぎょうざの製造、調理食品の下処理および調理、野菜の加工、漬物の製造、豆腐製造(リンガーハットグループ店舗のセントラルキッチンとしての機能)、審査登録機関はビューローベリタスジャパン(株)システム認証事業本部)。
ISO22000認証取得に取り組んだ経緯について、(株)リンガーハット管理部総務・人事グループCSRチームの種川浩之部長は「もちろん『店舗で食事をされる皆様に《食の安全・安心》や《食の喜び》を提供したい』という目的があります。それに加えて、リンガーハットグループでは、2020年までの長期目標として、売上の50%を海外店舗で占めることなどを目指しています。近い将来、ISOなどの規格に取り組んでいなければ、輸出することは難しくなってくるでしょう。海外展開を具体化していく上では、工場(セントラルトキッチン)でISOなどの国際規格に取り組んでいるかどうかは、大きなポイントになると考えています。国際規格については、さまざまな認証制度がありますが、『HACCPとISO9001の要素が含まれているので、現時点ではISO22000が最も良い仕組みではないか』と考え、2011年から認証取得に向けてキックオフしました」と振り返る。
ISO22000構築に伴う効果について種川氏は、「ISO22000を運用している組織では、例えば、何らかの対策を講じた場合に、その対策の有効性や妥当性について検証をしなければなりません。例えば、以前から危機管理のマニュアル、製品回収のマニュアルなどは作成してありましたが、そうしたマニュアルが正しく機能するかどうかの効果測定は十分に行っていませんでした。その点は、『ISO22000は厳しい』というよりも、むしろ『これまでの管理には甘さがあった』と受け止めています」「また、ISO22000では、一つひとつの手順について明確な『根拠』がなければなりません。例えば、調理温度を設定したのであれば、『なぜその温度で管理するのか?』『なぜその頻度で温度確認をしているのか?』という根拠が必要です。誰かをCCPの担当者に任命したのであれば、『誰を任命したか?』だけではなく、『どのような力量評価を行っているか?』『なぜその人を任命したのか、その根拠は?』といった点まで明確にしておかなければなりません。『すべてにおいて根拠や妥当性確認が求められる』というのは、ISO22000の特徴の一つだと思いました」と語った。
食品安全に係る今後の課題については、「第三者による審査を受けることで、非常に勉強させてもらっていることは間違いありません。今後も、PDCAサイクル(Plan‐Do‐Check‐Act)を回して継続的改善を怠らないことで、より良い仕組みへと成長させていきたいと思っています。工場でISO22000認証を取得したので、現在は店舗での衛生管理・安全性確保の仕組み作りについても検討しているところです」(種川氏)と語っている。
JAさが農畜産加工部の全事業を移管して2011年4月に新たな組織としてスタートを切った(株)JAフーズさが(本社佐賀市、徳永春喜社長)。2010年12月には本社で「冷凍米飯・冷凍加工食品の設計・開発、製造及び配送」に加え「ブロイラーのと鳥処理」、「ブロイラー加工品(冷蔵食肉及び冷凍食肉)の設計・開発、製造及び配送」の範囲までISO22000認証を拡大。各事業所で関連事業を展開し、2012年12月に認証登録を更新している。審査登録機関は一般社団法人日本品質保証機構(JQA)。
ブロイラーの処理加工および販売、ブロイラー種鶏の育成飼育および種卵の採取、ヒナの孵化販売、ブロイラー生産農家の飼育管理技術指導、鶏の保健衛生ならびに診療といったブロイラーインテとしての顔のほか、冷凍米飯、加工食品、菓子の製造および販売など、総合食品企業としての顔も併せ持つ。
商品管理部部長の山下賢二取締役によれば、同社では「顧客ニーズに応え、安全・安心な食品の提供により、顧客満足を向上し、事業拡大と社会貢献につとめる」を経営理念に掲げ、食品安全については「お客様の求める品質(安全・安心)を含め、製品要求事項を的確に把握し、製品実現に努める」、「食品安全マネジメントシステムの有効性の継続的改善につとめ、不適合発生を未然に防止する」などから成る食品安全方針を定めている。
ISO22000認証取得のきっかけについては、原材料の生産から顧客への販売まで幅広く手掛けていることもあり、農場から食卓に至るまでのすべての段階において食の安全を守ることを目指し、また食品の安全・安心が社会的な要請となっている背景もあり、食品安全に対する管理体制を証明する手法の一つとして、認証取得を目指すことにしたという。
認証取得に当たっては、同社の事業の中で最も多くの原材料を使用し、最も多くの製造工程を必要とするピラフ事業と加工食品事業での取得を目指した。この事業でのノウハウを他の事業にもフィードバックをしやすいとの狙いもあったという。ピラフ事業と加工食品事業で2009年に先行してISO22000認証を取得し、ブロイラー処理加工事業ではその1年後の2010年に同認証を取得した。
衛生管理の体制については、当社はブロイラーの生産・処理加工・販売から冷凍米飯、加工食品、菓子の製造および販売まで、それぞれ業態の異なる幅広い事業を取り扱っていることから、内部コミュニケーションを密にするよう心掛けている。また事業が多岐に渡ることから、それぞれの力量を平準化するために、従業員教育を徹底している。
首都圏(東京都、千葉県、埼玉県、神奈川県)を中心に持ち帰りすしの販売店舗「ちよだ鮨」、回転すしの店舗「回鮮ちよだ鮨」などを展開する(株)ちよだ鮨(本部所在地・東京都中央区明石町、中島正人代表取締役社長兼COO)は、「新鮮でおいしい本格江戸前すしを、手頃な価格で、1人でも多くのお客さまに召し上がっていただきたい」という理念(同社では「すしの大衆化」と表現している)の下、食材の仕入れから物流、商品の製造・販売に至るまで、独自の仕組みづくりを推し進めるとともに、鮮度管理や衛生管理についても独自のシステムを構築している。
一般的な食品製造業においては、HACCP計画において「加熱工程」や「金属検出機を通す工程」などをCCPとして管理する場合が多い。一方、日本の“生食文化”の象徴ともいえる「すし」の場合、加熱工程のような“明確に菌数を減少させられる工程”が存在しない。しかも、持ち帰りすしや回転すしの業態では、利用者が老若男女を問わず不特定多数であることから、食中毒発生を予防するためには、衛生管理に万全を期さなければならない。
同社で食品衛生検査室マネージャーの新善吉氏は「当社の場合は、海産物を取り扱っているので、食中毒菌の中でも特に腸炎ビブリオに対する危機感がありました。特に1990年代後半は、腸炎ビブリオは事件数・患者数ともに多い病原菌でした。東京・中央区には築地市場があるので、当時の中央区保健所も腸炎ビブリオ対策には力を入れていたようです。当社では、1994年(平成6年)に衛生管理を徹底するための専門部署として『食品衛生検査室』を設置し、その後、1999年には食品検査や衛生教育、衛生指導などを専門に行う『おいしい環境づくり(株)」という別会社を設立しました。この別会社では、原料検査や各店舗の商品の抜き取り検査、現場の衛生点検や衛生指導などを行っています」と紹介する。
また、店舗における衛生管理の状況について、経営企画室リーダーの内山一浩氏は「基本的に、全店舗において同じ設備や器具を導入しています。そのため、『同じオペレーションをすれば、同じ品質、同じ衛生状態の商品を提供できる』という状態にしています。この『全社員が同じオペレーションを行う』という点は、きわめて重要なポイントになります。そこで、当社では『はじめの一歩』『衛生10カ条』という独自の教材を使用しています。『はじめの一歩』は、入社時研修の際に用いるテキストで、当社としての(あるいは社会人としての)基本をまとめたものです。その内容は、研修時に全社員に叩き込んでいます。『はじめの一歩』の中でも、衛生管理については言及していますが、当社の場合は「生もの」を取り扱うので、衛生管理に関する知識は、特に重要な要素となります。そこで、平成20年に『衛生10カ条』を制定しました。これは、食材の温度管理、手洗い、まな板などの器具を介した交差汚染の予防、消費期限の厳守など、『衛生管理に関する基本的な項目』を10項目に集約したものです。基本的な内容ですが、当社が考える『衛生管理の要素』を凝縮したものであり、全員が絶対に守らなければならないものです」と説明する。
さらに、同社の衛生管理体制の特徴について、新氏は「以前は『すしは職人の勘に頼って作業する世界』という雰囲気がありました。しかし、チェーンストアを展開するためには、誰が作業しても『同じ品質』『同じ安全性』でなければなりません。そのため、衛生管理に関するバックデータの収集には、かなり力を入れています。例えば、『温度管理に不備があれば、微生物数はどのように変化するのか?』『その微生物数の変化は、美味しさや消費期限にどのような影響を及ぼすのか?』『包丁やダスターなどの消毒は、どのような方法、どのような頻度で行えばよいのか?』など、現場の『実際の食材』『実際のオペレーション』についてデータを集め、検証しています。そうしたデータに基づいて、当社独自の『商品の微生物基準』や『商品の消費期限』などは設定されています」と《科学的根拠に基づく衛生管理の構築・運用・維持管理》という点を強調している。
近年、ホテルやレストランなどのフードサービス業界では、厨房の作業スペースが限られていることや、調理スタッフの不足など、さまざまな問題に直面している。さらに最近は、経済不況などの影響もあって、人件費の削減を検討せざるを得ないようなところも多い。あるいは、「メインデュッシュは通常どおり自分たちの厨房で調理するが、ベーカリーや菓子、デザートなどを厨房で作るのはやめる(アウトソースする)」といったケースも増えている。そのような背景から、厨房に「プロの調理人」が少ない施設であっても、解凍や盛り付けなどの基本作業だけで食事を提供できるような、「アウトソース」に対する需要が高まっている。
しかし、アウトソースの食事を提供する場合であっても、そのホテルやレストランのブランド・イメージに合った、かつ「安全」「安心」「高品質」のすべてを兼ね備えた食事でなければならない。山梨県に本社・工場を置く(株)富士物産では、そのような「プロのシェフと同じ品質の料理」「手作りにこだわった料理」のアウトソーシングを請け負ってきた。取り扱うメニューは多彩で、フレンチやイタリアン、和食に至るまで、顧客ごとのニーズに応えた特注品を提供している。
富士物産は、2007年にHACCP法(農林水産省が所管する「食品の製造過程の管理の高度化に関する臨時措置法」)の認定工場を竣工するなど、HACCPに基づく衛生管理を徹底することで、取引先からの高い評価と信頼を得ている。さらに、昨年11月には一般社団法人日本惣菜協会のHACCP認定(「日本惣菜協会HACCP認定施設」、略称「JmHACCP」)を取得した。
同社でHACCP推進チームリーダーを務めるトウサック路子氏は、JmHACCP認証の取得に取り組んだことで、「調理現場では、たった一人でも『衛生管理について理解できていない人』がいると、HACCPをきちんと運用することはできません。さまざまな機会(例えば、月1回のHACCP会議など)を利用して、衛生に関する意識や知識が浸透するように取り組んでいます。改めて、自社のHACCPについて見直す機会を得たことで、『衛生教育』の面で課題があることに気づくことができました」と振り返る。
また、関口博社長は、これまでHACCPに取り組んできた経験を振り返り、「当社の場合は、取引を検討されているお客様には来社していただき、工場を見てもらっています。我々がどのようなHACCPを運用しているのかを知っていただきます。その際、当社が『安全性確保』や『衛生管理』に対してどのような姿勢で臨んでいるのか、衛生管理にどれだけのコストをかけているかなども、説明しています。我々とお客様との間で『コストをかけずに、安全を保証することはできない』という理解を共有する必要があると考えています。最近では、お客様に対して『当社はHACCPで安全性を確保しています。ですから、お客様の施設(ホテルやレストランなどの調理場やホールなど)でも衛生管理には十分な配慮をしてください』というお話をしています。当社自身がHACCP認定を取得したことで、さらにそのような話がしやすくなりました」
「比較的早い時期からHACCPに取り組み始めてきて、『本当によかった』と感じています。当社にとってHACCP認証は、まさに『陰(かげ)の広告塔』です。確かに、HACCPの構築・運用・維持管理にはコストがかかりますが、それ以上の『利益』もあったと思います。また、いち早くHACCPに取り組んだことは、間違いなく『企業としての差別化』につながっていると思います」 とも語っている。
全社一丸となってHACCPを推進する活動が、食品安全の確保のみならず、信頼される企業ブランドの構築・確立、社内・社外のコミュニケーションの充実など、さまざまな効果をもたらしている。
イカリ消毒(株)では、食品衛生に関する各種の検査やコンサルテーション、施設のペストコントロール(防虫・防そ)業務の支援、洗浄・消毒業務の支援、衛生監査の代行、教育・訓練(ワークショップセミナーや通信教育など)をはじめとして、さまざまなサービスを提供している。本稿では、特に食品取扱い現場を対象とした異物対策のサポート(異物検査、衛生監査の代行、現場において異物対策の中核を担う人材(異物管理マネージャー)の養成支援等の教育など)について、同社・新事業開発部検査コンサルグループの藤村晶グループ長にうかがった。
――はじめに、イカリ消毒が異物検査や異物対策(異物防除のための現場診断調査など)に関するサービスを展開するようになった経緯についてうかがいます。
藤村 食品事業者や消費者にとって「食の安全・安心」に対する意識が大きく変化した契機は、2000年に発生した加工乳による大規模食中毒事件であったと思います。この事件の直後から、異物混入の問題が急速に増えてきました。当社は、以前から有害生物防除に関連するサービスは提供してきましたが、その頃から(有害生物防除に関するサービスだけではなく)食品安全のための包括的な検査・コンサルテーションへと事業拡大を図るようになってきました。
食品企業の衛生管理をサポートする中で、「多くの現場(工場など)が『異物混入対策』に悩んでいる」ということを強く感じました。そこで、「(現場では)どのような予防策を講じておけば、効果的に異物混入の可能性を低くすることができるのか?」「(第三者は)どのようなサポートを提供することが、最も現場の役に立つのか?」ということを考えました。
当社の異物対策に関するサポートは、多くの現場で蓄積してきたデータやノウハウに基づいて開発されたものです。自社内の自主的な取り組みによって、現場の衛生管理レベルの向上を図ることができるようなサポートを展開しています。
――異物対策に関する教育・訓練のサービスも提供しています。
藤村 現場の皆さんがルールやマニュアルを理解し、かつ、ルールがしっかりと定着するまでフォローをします。大切なことは、ルールやマニュアルが「定着する」「継続的に運用される」という点です。ルールやマニュアルが現場に定着しなかったり、「いつの間にかルールが守られなくなっていた」ということでは、異物混入のリスクは避けられません。
そのため、当社では異物対策に関する教育・訓練のサービスも提供しています。現場確認の結果を報告したり、ルールやマニュアルの提案や作成をするだけではなく、必要に応じて、調査結果や改善提案を組織の上層部に説明したり、あるいは現場のオペレーターに「なぜ新しいルールを設ける必要があったのか?」という説明をしたり、座学やOJT(On the Job Training、実地訓練)による教育・訓練を行うことも、我々が提供するサービスには含まれています。
異物対策は、組織全体で取り組まなければ機能しません。そのため、組織内の階層ごとに、それぞれ「実施すべきこと」「理解しておくべきこと」が異なります。管理職には、システム要素を理解し、問題改善に取り組むことが求められます。現場点検を行う職長には、現場での「良し悪し」が判断でき、かつ現場の点検確認が実行・報告できることが求められます。そして、製造従事者には、食品を取り扱う上で必要な基礎知識・遵守すべきルールの内容を理解していることが求められます。
そこで、それぞれの職責に応じた教育・訓練を提供するために、「現場教育」「通信教育」「ワークショップ」など、さまざまな形式の教育・訓練のカリキュラムを用意しています。
――イカリ消毒では、さまざまな食品現場で蓄積してきたデータや経験を、各種サービスの開発・提供に活かしています。
藤村 食品企業の皆様は、まずは現場のどこに「リスク」が潜在しているかを的確に把握してください。そして、各現場の実情に合わせて、そのリスクを予防するための対策を講じます。その際に大切なことは、「個々の事象」を見るだけではなく、「その事象はなぜ発生したか」=「真因を見抜く現場点検」を行い、最終的に「システムのどこに欠点があり、それをどう組織の動きとして反映させるか」です。現場で各種の手順書やマニュアルが作成する際にも、「『事象面=点の管理』ではなく『線から面の管理』にする」という考え方で取り組まれるとよいと思われます。
当社では、これまで現場で蓄積してきたノウハウを活かして、さまざまなサービスを開発し、提供しています。本稿で紹介した異物対策や表示作成に関するサービスだけではなく、微生物管理や有害生物管理、洗浄・消毒などに関するサポートも提供できますし、現在はアレルゲン管理に関する新しいサービスの準備を進めているところです(今年の秋頃からのサービス開始を目標にして、現在、さまざまな情報収集と精査をしています)。
今後も、「食品の安心・安全」および「食品企業にとっての価値ある製品創造(商品づくり=ブランド化)」のため、「イカリ消毒だからこそできるサービス」「イカリ消毒にしかできないサービス」の提供に努め、これからも現場の皆様のお力になりたいと考えています。
これからは「アジアの時代」といわれている。それは、その地域が抱える人口と成長する経済を見据えたためである。大和総研が試算したASEAN全体での調査結果(2011年)では、人口は「6.1億人(日本の約5倍)」「経済規模は2.18兆ドル(世界8位のイタリアに相当)」「所得水準は3578ドル(日米欧の1割弱)」となっている。
ASEANの中でも、タイは中国と並び所得水準が上昇しており、高い経済発展が見込まれている。タイにおいては、1980年代に日系食品メーカーが進出し、輸出を目的とした加工・製造が行われるようになったが、今では輸出先は日本だけでなく、米国、EU、中近東諸国に拡大している。
また、タイでの購買力の上昇はモダントレード(スーパーマーケット、CVSなどの近代的小売業態)の比率の上昇につながっており、CVSの店舗数は2000年と比較して約4倍の8800店舗以上(2012年)に増加し、中でもセブンイレブンは6700店舗以上になっている。外食比率が高いタイでは、CVSのようにいつでも食品を売っている店舗は、完全な市民権を得ているといえる。
日本貿易振興機構(ジェトロ)が平成21年3月に取りまとめた報告書「タイにおける食品安全性確保への取組み」によると、タイの政府機関では、食品の安全性、輸出振興、各業界への行政監督の立場からHACCPの認証を実施している(特にタイの鶏肉製品、エビ製品の輸出企業は、主な輸出先である日本や欧米諸国からのニーズに応え、安全性や品質管理の高度化を進めるため、HACCPやISOの取得を積極的に進めている)。
かつては、保健省食品医薬品局および工業省工業規格研究所(TISI)の共同による認証や、保健省医科学局による認証の制度が設けられていたが、2002年10月の省庁再編に伴い、HACCP認証業務は農業協同組合省の農産品・食品規格基準局(ACFS)に移管された。現在では、同局が認定機関(AB、Accreditation Body)、水産局(DOF)、畜産振興局(DLD)が認証機関(CB、Certification Body)とするHACCP認証が実施されている。政府関係部局以外においても、SGSやRWTUVなどの民間認定機関が第三者認証機関としてHACCP認証を実施している。
また、農業・協同組合省が、2003年10月から食品の安全性を確保するために導入した、農水産物および食品の安全基準である統一的な認証ラベル「Qマーク品質保証制度」は、国内市場で消費者に最も認知されている制度の一つで、日本企業からも広く認知されている。同制度は、農産品・食品規格基準局(ACFS)が認証を統括し、各局がGAP、養殖GAP、エビ養殖HACCP、GMPなどの検査を実施し、これらに合格したものに対して「Q(Quality)マーク」を与える制度である。
今回は、本年3月にタイを訪問し、日本からタイに進出して現地で人気の飲食店となった「8番ラーメン」のセントラルキッチン、糖アルコールを生産するウエノ・タイ(Ueno Fine Chemicals Industry (Thailand), Ltd.)のバンプー工場(上野製薬(株)のタイ現地法人)などを視察した一般社団法人日本惣菜協会技術アドバイザーの平山誠氏に、現地での体験記をご寄稿いただいた。
多数の企業がタイに進出する中、石川県金沢市を基点として138店舗を展開している「8番ラーメン」が、1992年にタイでの1号店を皮切りにして、今では100店舗まで成長を遂げている(年間食数は約1300万食に及ぶ)。今回は、8番ラーメンの食材を製造するセントラルキッチンと関連会社のスープベースを製造する工場を訪問し、原料の調達、メニュー作り、製造の工夫、食品安全などについて視察した。
タイでは、食品の加工に関わる規制としてGMPが2001年に導入され、54品目に「食品製造方法」「使用する機械」「食品の保存方法」等に関わる基準を設けている。日本から輸入する場合は、日本ではGMPが義務化されていないため、代替書類として「食品営業許可」の写しと英語の翻訳を添付することで許可が得られている。2012年には、一部のパックされた加工食品を対象に「食品登録番号の取得の義務化」「製造工程、製造機械、製品保管に関するFDAの検査・証明書の取得」を求めるプライマリーGMPも導入されている。今回訪問した両施設とも、近々にHACCP取得を目指している。
ウエノ・タイは(株)上野製薬の現地法人で、今年で創業25年を迎える。バンコク郊外のサムットプラカーン県にあるバンプー工場は機能性甘味料の「ソルビトール」や「マルチトール」などの糖アルコール(液糖・粉糖)を生産している。9割は日本向けで、1割はタイ国内向けと北米向け輸出になっている。工場は、国際的な規格の取得を重視し、ISO9001、ISO14001、HACCP、GMPの認証を取得し、さらにイスラム教対応の「ハラル」、ユダヤ教対応の「コーシェル」の認証も取得している。
餡製品の製造および販売などを主業務とする田中製餡(株)(本社・東京都、田中健二社長)は、昭和22年(1947年)に田中次郎吉氏が東京都大田区大森で個人経営として製餡業を開始。昭和25年に組織を法人化し(当時は(株)田中製餡所)、昭和35年には社名を現在の(株)田中製餡に変更するとともに、将来的な練餡需要の伸びを予測して、業界で最初の「練餡専門工場」を新設した。創業は東京・大森であるが、昭和58年に(本社は東京のまま)製造工場を北海道・千歳市に移した。現在は、製餡の他にも、水ようかんやゼリーなどの受託製造も行っている(受託製造の製品は、例えばデパ地下などでお中元ギフトなどで販売されている)。
田中製餡では、経営理念として「人々の健康で豊かな食生活に貢献する〜田中製餡は天地の恵み、自然の恵みを元として人々の健康で豊かな食生活に貢献します〜」ということを掲げて、この経営理念を実現するためにISO22000の仕組みをを活かしている(2013年2月末現在、認証取得に向けて一次審査の受審を終えた段階である)。
田中社長はISO22000に取り組み始めたきっかけや経緯について、「私が社長に就任した時点(今から4年前)では、当社はどちらかと言えば『トップダウン』で動いている会社であったように思う。しかし、社長に就任する以前から『本当に、今のままのトップダウンでよいのか?』『社員が指示待ちの状態になっていないか?』『もっと自主性を持たせるような取り組みをすべきではないか?』と考えていた。製造現場においては、以前からHACCPに基づく衛生管理を取り入れていたが、『末端の従業員に至るまで全員が理解できている』とはいえない状態であった。しかし、やはり『自主性を持って衛生管理に取り組むことが重要である』と考え、『ISO22000の認証取得を目指すことで、改めて衛生管理を徹底するための活動を展開しよう』と考えた」と振り返る。
また、ISO22000に取り組んだ効果も見られ始めている。田中社長は「一例を挙げると、(1)コミュニケーションが以前よりできるようになった、(2)ハザード分析の実施を通じて、具体的な対処方法を理解できるようになった、(3)無駄なコストが明確になり、コスト削減が把握できるようになった、(4)目的を持った生産計画を実施することができた―などの変化が見られている」と説明する。
ISO22000に関する活動以外では、例えば5S活動(整理・整頓・清掃・清潔・躾)も展開している。5S活動について、田中社長は「従業員自らが『自主的』に、問題点がないか抽出し、改善活動を進めるように取り組んでいる。取り組み始めた当初は、製造部門以外の現場(例えば、事務関係の部門、品質管理部門、製品開発部門など)では、なかなか5S活動が浸透しなかったが、最近になって『全社を挙げての5S活動』が展開できるようになってきたと感じている。こうした『全社的な活動』を展開し、何らかの成果を上げることで、会社は『次の全社的な活動』を展開できるようになる。そのようにして、少しずつ成果を積み重ねていくことで、その会社は10年、20年と続いていくことができるのだと思う」と語る。
ハム・ソーセージなどの食品製造加工を主業務とする明宝特産物加工(株)は、「安心でよりよい商品づくり」を目指して、昭和28年に創業。以来、美しい山々、長良川の支流、文字どおりの山紫水明の地・郡上明宝の地で、50余年の歳月をかけ「明宝ハムのおいしさ」を育み続けてきた。
同社は、創業当初から「農山村の食生活改善運動」と「村の畜産振興」などを視野に入れ、地元に愛される「明宝ハム」ブランドを育んできた。「昔ながらの製法」を守り続けるとともに、主原料の豚肉は良質な国産品を厳選し、食品添加物の使用を抑えるなど、「安心して召し上がっていただける商品」「『もういっぺん食べたい』と思っていただける商品」を提供し続けている。
同社がHACCPやISO220000、食品衛生7S(食品安全ネットワークが開発した「整理、整頓、清掃、洗浄、殺菌、躾、清潔」の7項目から成る衛生管理の考え方)に取り組んだ背景について、同社の名畑和永専務取締役は、「当社の前会長は、『“明宝ハム”をこれまで以上にお客様に喜んでいただけるブランドに育てるために必要なことは何か?』と自問自答し、『衛生管理の向上が重要である』『“おいしい”だけではなく、“科学的な根拠に裏づけられた安全・安心できる明宝ハムを提供すること”が必要である』と考えた。そこで、『会社全体に衛生管理システムの導入を展開するには、どうすればよいか?』ということを考えていた。当社は、地域に密着した会社であるため、『食品に関わる不祥事など、企業の経営リスクを起こしてはいけない』という観点から、食品衛生の取り組みを実践してきた」と回顧する。
そうした背景から、同社は衛生管理・安全性確保に対して積極的な活動を展開している。2007年には岐阜県の「HACCP普及推進大会」において、食品HACCP推進優良施設としての表彰を受けた。さらに、2011年にはISO22000認証も取得するなど、「安全・安心な商品」を追及して、食品安全・衛生管理の向上のための妥協ない取り組みを継続的に展開している(ISO22000の審査登録機関はLRQA(ロイド・レジスター・クオリティ・アシュアランス・リミテッド)、対象施設は本社および工場、対象品は「明宝ハム」および「ミニハム」)。
食品衛生に関する最近の活動の一例として、ISO22000の内部監査による指摘の一例を紹介すると、「2回目の製品回収プログラムの訓練を実施した時、十分な対策ができていないことがわかった」という指摘事項があった。また、マネジメントレビューのアウトプットでは、「書類のチェックに対して食品安全チームリーダーが有効な活動をしていない」という軽微な指摘事項もあった。同社が現在直面している主な課題と、解決のためのアプローチとしては、下記のような項目が挙げられている。
【課題1】資源(ヒト、時間、情報、技術など)について:経営資源の中で、ヒトの位置づけは非常に重要なファクターを占めている。企業が食品の安全・安心を構築するには、限られたスタッフで運用しなければならず、そのためには食品安全チームのモチベーションを下げることなく、企業が目的とするゴールに向かっていくことが求められる。
【課題2】食品衛生7S活動と教育・訓練の停滞:現場の食品衛生7Sチームの活動が継続に実施できず、改善活動が停滞していた。教育・訓練は、知識や情報を得るだけでなく、日常の業務に反映をされていることが重要である。トップマネジメントは、「食品安全チームリーダーがチームを掌握して、チームプレーでの業務展開が十分にできていない」という点を気にかけている。
前出の名畑氏は、今後の課題について「我々に課された使命は『会社を長く存続させること』である。そのためには、今後も食品衛生の確立に努めることで、製品の安全性を向上させ、安全で安心して購入できる『明宝ハム』を提供し続けなければならない。今後の課題としては、(1)食品衛生を確立して、安全性の向上を図ること、(2)安心して購入できる「明宝ハム」を提供してくこと(そのためには、企業として法令順守、モラルのある経営も必須である)、(3)顧客が満足する製品作り(そのためには、安全・安心な原材料の使用、顧客目線の新製品開発などにも取り組む)―などを考えている」と語っている。
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