BSI(英国規格協会)は本年2月28日、ヤマトホールディングス(株)(東京都中央区、山内雅喜代表取締役社長)からの依頼に基づき、小口保冷配送サービスに関する規格「PAS 1018:2017」(以下「PAS 1018」)を発行した。
PAS 1018は、小口保冷配送サービスのうち、途中で荷物を積み替える輸送形式のサービスを対象にしたもので、車両に搭載されている保冷庫などの空間の温度管理を軸とし、配送中の積み替え作業に関する要求事項を規定している。規格の主な使用者は小口保冷配送サービス提供事業者。
ヤマトホールディングス(株)傘下の6社(ヤマト運輸(株)、沖縄ヤマト運輸(株)、雅瑪多(中国)運輸有限公司、香港ヤマト運輸(株)、シンガポールヤマト運輸(株)、マレーシアヤマト運輸(株))は5月14日付でPAS 1018認証を取得した(認証機関はBSIグループジャパン(株))。
同社では、認証取得の目的について、「現状、保冷宅配便サービスは、世界各国で経済成長や通信販売の市場拡大により需要が高まっています。当社は、国際規格の取得を通じ、クール宅急便を展開する各国において、お客様に安心してサービスをご利用いただくための品質のさらなる向上のため、客観的な視点による第三者機関からの審査を受け、PAS 1018の認証を取得しました」と語っている。
また、今後の取り組みについては、「現在、ヤマトグループは、アジア各国でクール宅急便を展開すると同時に、各地域での品質向上に積極的に取り組んでいます。このたびのPAS 1018の認証取得を機に、今後も高いサービス品質を維持し、お客様に安心してご利用いただけるサービスの提供を行うだけでなく、アジアを中心とした各国の物流事業者に対し、認証取得に向けた働きかけを行うことで、各国の小口保冷配送サービス市場の健全な成長と拡大に貢献していきたい」と語っている。
また、ヤマト運輸(株)は本年7月27日、羽田クロノゲートベース(ヤマトグループが運営する日本最大級の物流施設)において国際認証FSSC 22000を取得した。物流カテゴリーでのFSSC 22000の取得は世界で初の事例となる(審査登録機関はオーディス(株)、認定機関はJAS‐ANZ)。同社では、「現時点ではヤマトグループの中核施設であるヤマト運輸羽田クロノゲートのベースターミナルに限定していますが、年内をめどに、海外との接点である沖縄ヤマト運輸のサザンゲートやヤマトグローバルロジスティクスジャパンの羽田クロノゲート支店での取得を予定しています」「今後、ヤマトグループは、食品安全の国際規格に則った食品安全ハザードを管理する仕組みを構築し、日本国内のみならず海外へも展開し、世界の皆様に安全な食品をお届けできるよう努めていきます」と述べている。
日本検査キューエイ(株)(JICQA、本社所在地・東京都中央区新富、川ア博史社長)は5月26日、東京・千代田区の日比谷コンベンションホールにおいて特別セミナー「日本発の食品安全管理規格『JFS-E-C』の特徴と実際の導入」を開催した。
日本発の食品安全管理規格として昨年7月に発行された「JFS-E-C」は、「日本企業にとって運用しやすい」「中小規模の企業でも取り組みやすい」などの点に考慮して策定されていることや、「国際的に通用する規格」としての位置づけを目指してGFSI(世界食品安全イニシアチブ)のベンチマークスキームとしての承認取得を視野に入れていることから、現在、大きな注目を集めている。
セミナーでは冒頭、主催者を代表してJICQA執行役員営業部長の小橋弘政氏が挨拶に立ち、「当社は設立からちょうど25周年を迎える、日本で最も古い審査登録機関の一つである。現在、約4000件のISO認証を管理しており、そのうち食品は約200件。JFS-E-C規格に関しては、本年1月にイオンフードサプライ・長泉センター様を認証登録したが、その後もいくつかの組織が審査を控えている。この規格は昨年7月に発行されたばかりだが、食品業界内でのニーズは高く、今後、認証件数が伸びてくると期待している」とJICQAとJFS-E-C規格の近況を紹介した。
その後、JFS-E-Cの認証プログラムオーナー※である(一財)食品安全マネジメント協会の西谷徳治理事長によるJFS-E-C規格の特徴の解説、イオンフードサプライ(株)長泉センターの清水通昭センター長によるJFS-E-C認証取得の取り組み事例が紹介された。また、JICQA審査本部審査第1部の川村淳氏(理事審査員)によるJFS-E-C規格の要求事項の特徴(HACCPやFSSC22000との比較など)や、審査時のポイントなどに関する講義も行われた。
飛騨ミート農業協同組合連合会(JA飛騨ミート、本部・岐阜県高山市、駒屋廣行代表理事会長)が今年2月16日、国内の食肉市場を開設する食肉センターとして初めてGFSIが承認する国際食品安全規格の一つである「FSSC22000」の認証を取得した。飛騨ミートは2004年にISO9001認証、2007年にISO22000認証を取得し、さらに対米・対EUなど1連合・10カ国への輸出施設ならびに岐阜県HACCP導入施設(第1号)認定も受けており、グローバルな視野で、トップブランド「飛騨牛」の安全性と品質の向上に努めてきた。2009年2月には中央畜産会主催の平成20年度畜産大賞の地域畜産振興部門で優秀賞を受賞し、総合面で畜産業界の優良事例として高い評価を受けている。
これまで国際的な食品安全規格の導入などを含め、飛騨ミート運営の指揮を執ってきた代表理事常務の小林光士氏は、「そもそもHACCPで差別化するという考え方は間違っており、ISO22000導入してからも差別化が目的でないと常に自重しながらも、HACCPが利益に結び付いたのも事実。お金がかかるとか書類が多いとか、費用対効果に疑問を持つ人もまだ少なくないが、徐々にそういった抵抗もなくなってきている気がします」とHACCPの副次効果とHACCPが浸透してきた様子についてこう語る。
HACCP管理を導入した当初、HACCP管理の具体的な指標の一つとして10 cm×10 cmの範囲で一般細菌数10の3乗未満をターゲットとしていたが、すでにそれをはるかに超える一般生菌数10 cfu以下を維持している。また対米輸出認定施設でもあり、米国農務省食品安全検査局(FSIS)の基準に従ってCCPの一つである「枝肉の冷却」については、24時間以内に枝肉の表面温度を4.4 °C以下にすることが義務づけられており、対米輸出するものについては許容限界を4.4 °Cに設定し、国内流通させるものについては許容限界を10 °Cとして温度管理を行っている。しかも、大腸菌全般とサルモネラ属菌に対するゼロトレランスにも対応している。
「HACCPを運用するというのは人の命に関わることだと認識しなければなりません。そして、その最大のポイントはソフト運用である。ただ、食肉業界でソフトほど難しいものはなく、古くからの職人も多く、昔からのしがらみがある中で作業工程の標準化などの変革は容易ではありません。決められた手順を徹底するためのトレーニングも行うが、手洗いやナイフの消毒などを含めたソフトを重視していても、それこそが難しい業種であることは理解してほしいところで、将来的にはと畜、解体などの工程が可能な限り機械化されるべきだと考えます。特に管理不備になりがちなのが枝肉の出荷場所。まだまだ外気に触れるところで積み込んでいることも少なくなく、正しい製品の温度管理や野鳥の防止なども含めた的確な管理をするには設備投資が必要になります」
冷蔵庫入庫の際に、枝肉に結露がかからないように、最初に入る枝肉の冷蔵庫の入口のパッキンにたまった結露をスクレーパーなどを使って除去するというソフト対応よりも、機械的に結露が除去できればヒューマンエラーもなくなるとも小林氏は指摘する。
ISO22000の認証を取得してから10年、「ISO 22000+ISO/TS 22002-1+追加要求事項」となるFSSC22000の認証取得を決意し、昨年4月の畜産流通フォーラムで宣言した。
そして小林氏は、「FSSC22000は一般衛生管理の部分が重要な要求事項となっており、科学的な根拠に基づいて管理することで、『安全』をさらに強調し、これまで謳っていた『食の安全・安心』から『安心』の文字を削除することにしました。PRPが曖昧だったにもかかわらず、『うちの飛騨牛は安全ですよ』というのは心苦しいところがあったが、PRPも含めて、堂々と安全性が証明(科学的根拠による見える化)できるようになったので、顧客や消費者それぞれが感じる『安心』をはずす決意が固まりました」と、さらに安全性に焦点を当てた取り組みで自信を深めた。飛騨ミートではFSSC22000の認証を取得した後も、ISO9001とISO22000も継続する。
群馬農協チキンフーズ(株)(阿佐美菊男社長、所在地・群馬県北群馬郡)は昭和50年、前橋市で群馬鳥市(株)として設立、昭和62年に群馬県経済連北毛食鳥センター内に移設された(その際、吾妻食鳥センター、東毛食鳥センターおよび北毛食鳥センターが統合された)。平成2年に群馬農協チキンフーズ(株)に改め、群馬県経済連の食鳥事業を移管された。現在は、ブロイラーの生産から処理・解体・加工、鶏肉製品の販売に至るまで、フードチェーンを一貫した管理体制を確立している。
同社は2007年にISO 9001認証や全農安心システム認証(全農グループが推進するトレーサビリティに関する認証)を取得するなど、「食の安全・安心」の確保に取り組んできたが、将来的なHACCP制度化(義務化)の状況などを見据えて、2016年より本格的にHACCPシステムの導入に取り組み始め、2017年2月には厚生労働省の「HACCPチャレンジ事業」に取り組む組織として登録された)。
HACCP導入のきっかけについて、同社品質管理室の樹下直紀室長は「2015年4月の食鳥検査法施行規則(食鳥処理の事業の規制及び食鳥検査に関する法律)の一部改正により、食鳥処理場でもHACCP導入型基準と従来型基準の選択制となりました。さらに、2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催などを見据え、厚生労働省が将来的なHACCPの制度化(義務化)に向けて動き始めました。HACCPを導入して、危害につながる可能性がある工程を確実に管理することで、製品の安全性の向上につながることは間違いありません。当社としても、HACCPに取り組むことは自然な流れであったと思います」と振り返る。構築時の経緯については、「食肉衛生検査所の方からは、「施設が古いからHACCPはできない」ということはありません。HACCPで大事なことは危害要因分析であって、どのようにして危害を防ぐかを考えればよいです。今の現場の状況を踏まえて、自分たちの会社に合った管理体制を構築しましょう」ということを繰り返しご指導いただきました。これまでHACCPに取り組んできた中で、『HACCPでは一般衛生管理プログラムの構築が大切』ということを強く感じています」と語る。
今後について樹下氏は「将来的にはFSSC 22000の認証取得が目標になると思います。これからも、常に『食品安全マネジメントをさらに高いレベルで運用する』ということを目標に、HACCPの継続的改善に努め、FSSC 22000へステップアップできれば、と考えています」語っている。
なお、同社ではCCP(チラー水の水温測定)のモニタリングにおいて、サンデン・リテールシステムの無線を介した自動温度記録システム《e-mesh moderno》を採用している。本号では、《e-mesh moderno》の活用事例についても詳細に紹介している。
全国区の知名度を誇る「白い恋人」で知られる石屋製菓(株)の歴史は、1947年に石水幸安氏が政府委託のデンプン加工業として創業したことに遡る。翌年よりドロップなどの菓子製造を開始、1959年に石屋製菓(株)を設立。1976年には看板商品であるロングセラー商品「白い恋人」が誕生、1995年(平成7年)には「イシヤ チョコレートファクトリー」(現・白い恋人パーク)をオープンした。同パークは「白い恋人」の製造工程の見学通路や、お菓子作り体験工房、オリジナルスイーツが楽しめるカフェなど、現在では札幌を代表する観光名所として多くの来場者で賑わっている。
同社の衛生管理・食品安全確保の大きな転機となったのが、2007年に報道された賞味期限改ざんの不祥事であった。「白い恋人」の一部に賞味期限を延ばして販売したものがあることなどが発覚。この問題をきっかけに、全社を挙げて衛生管理の徹底的な見直し、コンプライアンスの強化、消費者への積極的な情報開示などに取り組み、現在ではそうした真摯な活動が実を結び、信頼回復を果たしている。製造部の近藤洋史氏は、FSSC22000に取り組んだきっかけについて「(不祥事の後)札幌市食品衛生管理認定制度を取得するなど、以前から衛生管理の強化には努めてきました。そのような時、当社の衛生検査などを委託しているBMLフード・サイエンスさんから『現状の衛生管理は、かなり高い水準にあります。今より少しのプラスの取り組みをすれば、FSSC22000認証は取得できるはずです』という言葉をいただいていたことが(FSSC22000に取り組んだ)きっかけの一つです。我々としても『常にワンランク上の衛生管理を目指していきたい』という気持ちがありますので、FSSC22000の認証取得を目指すことに異存はありませんでした」と振り返る。
また、品質管理部の橋新一郎氏は「我々は『白い恋人』を“北海道のお土産”という枠組みにとどまらず、“日本のお土産”として広く世界中の皆さんに愛される商品に育てていきたいと思っています。当社の食品安全チームリーダーも『世界中の人に食べてもらうのだから、品質管理・安全管理も“グローバルな視点”で取り組むべき』という考えを持っています。海外の方が『白い恋人』を購入する機会が増えてきたことも、FSSC22000に挑戦することを後押ししましたね」と語る。
FSSC22000に取り組んでからの効果や変化について、近藤氏は「ISO/TS22002-1に取り組んだことは、我々にとっては『これまで持っていなかった衛生管理の視点』で現場を見るきっかけになりました。また、以前のHACCP関連の活動は製造部門での取り組みにとどまっていましたが、FSSC22000では『全社的な取り組み』が不可欠なので、これまで以上に社内のコミュニケーションが強くなったと思います」と語る。
今後に向けて、近藤氏は「システムの形骸化は絶対に防がなければなりません。当社の社長も『認証取得がスタート』と強調しています。FSSC22000に取り組み始めてから、現場からHACCPに関する意見や提案が積極的に上がってくるようになりました。これは大きな変化です。こうした意見や提案を改善に活かしていきたいと思います」と継続的改善の重要性を強調している。
全国区の知名度を誇る有名菓子「白い恋人」――そのブランド力の根底には、同社スタッフが一丸となって妥協なく、HACCPの構築・運用維持管理に取り組む姿勢が根ざしていたのである。
20カ所以上の農場・孵卵場・育雛場が連携し合って、種鶏(雛の親に当たる鶏)、種卵(雛が生まれる卵)、雛および鶏の育成、採卵など、「卵の生産に関するすべてのプロセス」を一貫管理できる体制を確立しているトマルグループでは、2012年に採卵・養鶏業界に先駆けてみさとパッキングセンター、大室GPセンター、および孵卵場においてISO22000認証を取得。さらに、昨年12月には、みさとパッキングセンターおよび大室GPセンターでFSSC22000認証を取得した。ISO22000およびFSSC22000の審査登録機関は、いずれも(株)日本検査キューエイ(JICQA)。
ISO22000に取り組み始めた当時について、みさとパッキングセンターの採卵養鶏事業・GP統括部長の橋壁勝昭氏は「GPセンターは、納入先であるスーパーマーケットや量販店などの外部監査や二者監査を受ける機会が多く、以前は年間で20回以上の監査を受けていました。しかも、それぞれが独自のチェック項目に基づいて監査を行っていたので、監査対応だけでも大変な作業で、監査を受けるたびにGPセンターの書類も増えていくような状況でした。その一方で、納入先の監査項目が、ISO22000の規格要求事項を取り入れたものになりつつあることは感じていました。そのため、『当社としてもISO22000に取り組んだ方が、監査対応がスムーズになるのではないか』ということは考えていました。また、ある外資系の量販店からは『ISO22000やGFSI承認規格(FSSC22000など)に基づく管理に取り組んでほしい』『GFSI承認規格の認証取得をしていれば監査は不要になる』という話も聞いていました。そのため、『まずはISO22000、将来的にはFSSC22000に取り組む』ということの必要性は感じていました」と振り返る。
ISO22000・FSSC22000の導入以降の効果について、橋壁氏は「目に見える効果でいえば、クレーム件数は顕著に減少しました。また、新しいお客様との可能性が広がりました。実際に現場を見ていただいて、『このような管理をしているなら、安心して取引できそうですね』と評価してもらえることは増えました」と語る。また、(株)トマル常務取締役の櫻井康生氏は「ISO22000のキックオフをする際、当社の社長も『(認証取得には)対外的なアピール効果もあるが、社内の変革のために使いたい』という話をしていました。社内で業務をシステムとして確立する効果は、十分に得られていると思います」と語る。
また、橋壁氏は「現場で(ISO22000・FSSC22000の仕組みを)運用する中で、『自分たちの仕組みを作ればよい』ということを実感できるようになってきました。継続的改善の重要性も徐々に理解してきましたが、それと同時に『ISOにはゴールがない』ということもわかってきました。今でも『この規格要求事項には、こういう意図があったのか』『現場ではこういう活動をすればよいのか』と気づくことはあります」と食品安全マネジメントシステムの継続的改善に取り組むことの重要性も指摘している。
(編集部注:GPセンター=鶏卵の格付け、選別、包装などを行う施設)
2011年1月に成立した米国食品安全強化法(FSMA;Food Safety Modernization Act)は全4章41条から成る見通しで、現在、米国食品医薬品局(FDA)において各規則の制定作業が進められている。そのうち、第103条「人の食品と動物の食品(ペットフード/餌)に対する予防的コントロール」(Preventive Control for Human Food(PCHF)/Preventive Control for Animal Food)については、2015年に最終規則が示され、昨年9月から従業員500人以上の企業では適用が開始されている(従業員500人未満の企業については本年9月、売上高100万ドル未満の企業については再来年9月より適用される見通し)。
本法の成立に伴い、FDAでは国内および海外の食品企業に対する査察を実施しており、日本にもFDA査察官が訪問している企業がある。本稿では、日本HACCPトレーニングセンターが1月30日、東京・神田のフォーラムミカサ・エコで開催した第28回「HACCPフォローアップセミナー」において、グローバリューションの村井京太氏が行った講演の概要を掲載する。同氏は、食品企業の輸出支援などに携わっており、FDAによる査察の事前準備を支援したり、実際の査察現場に同行する機会もある。講演では、村井氏がFDA査察官へのヒアリングで入手した情報や、実際に査察に同行する中で見聞した体験などが紹介された。
なお、このPCHFでは、新しい食品安全管理のフレームワークとして「リスクベースの予防的コントロール」(Hazard Analysis and Risk-based Preventive Controls)という概念が設けられている。PCHFでは食品安全計画や「リスクベースの予防的コントロール」の作成などを行う担当者(監督者、責任者)として、PCQI(Preventive Controls Qualified Individual、予防管理の適格者)を設置することが求められており、村井氏はPCQIの有資格者でもある。(編集部)
本誌2017年1月号では北海道帯広市の「フードバレーとかち」の取り組みの中で食の安全性をさらに追及すべく、「北海道HACCP」をツールとし、地域が一体となり産学官でHACCPの普及を目指している様子を紹介した。今回は北海道HACCP認証取得企業のうち、(株)ホクコーと(株)キャトルシステムの2社を訪問し、これまでの経緯とHACCPに基づく具体的な衛生管理について取材した。
1987年創業の(株)ホクコー(北海道帯広市、岩橋浩社長)は、主に冷凍食品および食肉の販売、冷凍餃子の製造部販売を行っており、中でも冷凍餃子は野菜や小麦粉など原材料の95%を北海道産・十勝産で賄い、化学調味料を一切使用していない高付加価値商品。2015年3月にその餃子とカット肉の生産ラインで「北海道HACCP」を取得。さらに味付き包装肉(ジンギスカン・豚どんなど)も2015年9月に認証を取得した。
工場内の清潔区域には、クラス5万の空気清浄器が設置され、手術室レベルの清浄度が保たれている。冷凍餃子は原材料数が多く、工程図をはじめ書類作成などに苦労したというものの、普段から清掃、消毒、整理整頓などを徹底するとともに、HACCPが求める要件を満たすことはさほど難しくはなかった。コンサルタントは頼まず、帯広畜産大学で開催されるHACCP講習の中で必要な文献や書類のひな形などを揃え、実質、半年ほどでHACCPが構築できたという。
ただ、手洗い、入退出、健康チェック、清掃や消毒など細かく記録を残さなければならないにもかかわらず、当初は従業員に徹底されず、チェック漏れが時々起きた。そこで記録をチェックする人員を岩橋社長や工場長など4人に絞り、チェック漏れが起きにくい体制に改善。今では従業員全員、記録をつける習慣が身に付き、しっかりした検証確認ができるようになっている。「事件・事故が起きた時、責任は現場の人間ではなく社長にある」と岩橋社長は自らが率先してHACCPに取り組んできた
ドアノブに直接、手を触れなくても開閉ができるような工夫などにより経費の削減にも努めながら、清浄区域、準清浄区域、汚染区域のゾーニングはもちろん、清掃用のブラシなどもエリアごとに色が違うものを使用し、掃除用具が所定の場所に整然と吊るされている。
「製品ごとの製造担当者や原料の使用量とともに、製造後、機械を分解し洗浄する際に破損などないかをチェック、最終確認表に記録するようにしています。餃子の皮を作る小麦の練り装置やキャベツの脱水機などのバネなどの部品は破損しやすいため確認は入念に行います」(岩橋社長)と金属異物混入防止などにも細心の注意を払っている。
素牛生産を行う(有)九条ファーム、飼育・肥育を行う(株)キャトルシステム・九条ファーム豊頃牧場、加工販売部門の(株)キャトルシステム・食肉加エセンター、道内外や海外で外食事業を展開する(株)ガロードからなるガロードグループ。生産から加工、販売に至る「6次座業化」を理念として事業を展開しているが、食肉加工事業については2013年5月に農林水産省の「農の6次産業化事業」の認定、同年12月「整備支援事業」の認定を受け2014年4月から始めたばかり。
「食肉加工業としては全くの新参者で、しかも事業開始当時の当社は、わずか3人の従業員で食肉加工経験者ゼロ、食肉加工の知識も技術もないスタッフ寄せ集めの素人集団であり、HACCPに取り組む以前のレベル。常識では考えられない無謀とも言える挑戦でしたが、素人だからこそ事業のルール作りにHACCPが使えるのではないかと考えました」と話すのは(株)ガロードの相談役で6次作業化プランナー、農場HACCP指導員・審査員の堀江浩明氏。堀江氏は今回のHACCP導入に際し、文書作成から現場従業員の指導に至るまですべてを取り仕切ってきた。紆余曲折を経て最初の取り組みからわずか7カ月、2014年12月に中小企業の食品製造工場では十勝管内初の「北海道HACCP」認証を取得した。
食肉加工センターには、アキレス、隔膜(アウトサイドスカー)、スジ肉 タン、サガリ(ハンギングテンダー)、レバー、ハツなど内臓肉19種類がすべてチルドで入荷され、カット処理された各内臓肉は計量、真空包装後、マイナス30℃で液体凍結を行い、金属探知機を通し段ボールに入れて発送する。調理台など作業台の上は、お昼休みの時も終業時のごとく器具・機材がすべてかたづけられ、床は終業時に念入りに泡洗浄を行っている。
加工事業の商品の主な出荷先は、道内外や海外で外食事業を展開する(株)ガロードの直営の焼肉店(7店舗)や、道外の他社の焼肉チェーン店や精肉屋など。2016年1月には関東の大手企業から訪問したいとの連絡があり商談も成立。7月から納品が始まった。
十勝・帯広は国内有数の農業地帯で、全国トップクラスの食料生産量を誇る地域。さらに帯広畜産大学や試験研究機関が集積し、生産技術などの先進的な研究が進められているほか、農業関連の企業が多く存在する。これらの優位性を活かし、
――の3つを「フードバレーとかち」の柱としてオール十勝で地域振興を図っている。
さらに十勝ブランドとして消費者に広く受け入れられている安全で質の高い農畜産物の価値を一層高めるため、地域特性を踏まえ、生産・加工・流通・販売が結びついた「十勝型フードシステム」の形成を進め、さらなる需要の創出を目指している。
こうした中、厚生労働省によるHACCP義務化の準備が着々と進められており、十勝・帯広地域においても食の安全性確保をさらに重視し、「北海道HACCP自主衛生管理認証制度」(本誌2016年12月号関連記事掲載)をツールとし中小企業を中心にHACCPの普及を進めている。それはまさに、産学官による地域に根差した、熱意あふれる食の安全確保への取り組みといえる。
このほど、その取り組みを写真入りで詳細に紹介した「中小企業のHACCP導入事例集〜フードバレーとかち」(A4判、カラー53ページ、帯広市商工観光部工業労政課発行)が発行され、それに合わせて十勝・帯広におけるHACCP普及に携わってきた大学や行政担当者、認証取得企業の方々が集まり、これまでの経緯や問題・課題などについて座談会形式で話をうかがうこととなった。座談会終了後は、「HACCP担当者サミット in 帯広」と称し、北海道HACCP認証取得企業が集まりグループディスカッションが行われ、日頃の業務に関する問題点などについて熱心に話し合われた。今回の座談会の出席者は以下の通り(順不同)。
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